静と動が両立した世界。静寂の中にも力強い生命力が宿る、色と色とが織りなすテキスタイルデザイン。手がけるのはカリフォルニアとニューヨークで活躍するアーティスト、Taína Larot(タイナ・ラロット)さん。今シーズン、ロンハーマンではオーストラリア発のハンドメイドバッグブランド「State of Escape」(ステート オブ エスケープ)とタイナさんによるコラボレーションコレクションをリリース。RHCロンハーマン川崎店でのアートインスターレーションのために来日したタイナさんに話を聞きました。
テキスタイルアーティスト、パフオーマーなどさまざまな分野でクリエイティブな活動を行うTaína Larot(タイナ・ラロット)さん。物腰も口調もやさしげで穏やかだが、奥底に力強さを感じさせる
——今、タイナさんはどのようなライフスタイルを送っているのでしょうか。
サンフランシスコのベイエリアとニューヨーク、アメリカの両海岸を行き来しながら活動しています。私の日々の暮らしと創作活動は、家族との時間とパートナーであるキア・ラベイジャ(ニューヨーク出身のファインアーティスト。写真家、パフォーマーとして前衛的な活動を行っている)との旅で構成されているといっていいでしょう。さまざまな自然のランドスケープを訪ねることが大好きで、それが私のクリエイティブなプロセスを引き出してくれます。朝のメディテーションタイム、温かいお茶やコーヒー、自然の中を散歩したり、木陰で過ごすことが私の朝のルーティーンになっています。
——ベイエリア出身とのことですが、どのような幼少期を過ごしたのでしょうか。
ベイエリアで育った環境は、さまざまな世界と経験が入り混じった美しくてメロディアスなものでした。今も落ち着いた空気が流れていますね。私はサンフランシスコのホリデーストリートにあるバーナルハイツの両親の家で生まれました。近所では、地元のブロックパーティが開催され、それがサンフランシスコのカーニバルに発展し、生協は「レインボーグローサリー」(1975年にオープンしたオーガニック、自然食料品店の先駆け)になりました。いわゆるヒッピームーブメントの中心地です。幼少期の半分は海辺で過ごし、後の半分は内陸の草原や人里離れた土地で過ごしました。北カリフォルニアの広大な渓谷と川、そして郊外の風景は私の生い立ちの中でかけがえのないものです。静けさと混沌が同時に存在していました。
「State of Escape」とのコラボレーションを記念して、タイナさんはRHC ロンハーマン川崎店でアートインスターレーションを開催した
——テキスタイルデザイン、パフォーマンス等、さまざまな活動をしていますが、クリエイティブな世界に進もうと思ったきっかけを教えてください。
その質問は、子どものころを思い起こさせますね。日曜日になると、私たちの家では父がコンゴの楽器や打楽器を演奏する音が聞こえていました。ベースのサウンドがガレージからキッチンに届き、その音に合わせて母が腰を左右に振っていたのを覚えています。彼女はお気に入りのサルサの曲を口ずさみながら、料理をしていました。私をクリエイティブなフィールドに導いたのは、この音と感覚でした。両親が分かち合ってくれたものは、私にとって大きな喜びでした。
独特な色の深みと色彩の交わりを醸し出すタイナさんのテキスタイルデザイン。「いつもはカラーテストをしてから創作にかかるのですが、この作品では直感的に色をミックスすることにしました」
——これまでに一番影響を受けた人物やモノがあったら教えていただけますか。
私にもっとも影響を与えたのは、母ゼナイダです。物心ついたときから彼女には感銘を受け、いつも彼女のそばにいたいと思っていました。彼女は、私がやろうと思えばなんでもできるということをいつも私に思い起こさせてくれました。それは弁護士になりたいという6歳のころの夢だったり(笑)、あるいはダンスへの愛だったり……。母は私がもっとも情熱を感じていることを決してあきらめないようにと、常に私の心の中のオープンスペースを保ってくれました。高校時代には何度もやりたいことをあきらめそうになりましたが姉のケイシャとともに、私をゴールまで導いてくれました。大人になるにつれ自分の両親が歩んできた道と、それが自分の人生にとって何を意味するかを、本当に理解できるようになれます。母の人生は、私にインスピレーションを与え続けてくれています。
「私がファブリックや染料を扱うのが大好きなのは、完成した後の色のミクロの世界となる細かい折り目やねじれを手で感じられるから」
——“restrictions generate identity” (束縛がアイデンティティを生み出す)がアーティストとしての信条とのことですが、どのような意味なのでしょうか。
人生におけるどのような制限も、そこから立ち直り想像力を持って克服することができます。自分の人生の中で制限や束縛を感じていた瞬間を振り返り、私はさまざまなやり方を探ってきました。そして私は本当の自分を発見したのです。「できることよりもできないこと」が多くなる世界でも、そうやって新しい道、新しい自分、新しい人生を生み出せるのです。
——今回、「State of Escape」とコラボレーションしたタイナさんの作品「Untitled - Ocean Floor」は自然に根差した作品です。タイナさんは普段から海や自然と親しんでいるのでしょうか。また、この作品のインスピレーションはどこからきたのでしょうか。
私にとって、自然と海とともにあることは不可欠です。私のクリエイティブなテキスタイルの最大のインスピレーションは自然とその多様な風景から来ているのです。この作品は、私の中に流れるハワイの血筋と祖母のことを思い起こさせます。私たちは、深海(Ocean Floors )と遠く離れていますが、どこかでつながっています。ハワイ諸島の大地と水、広大な音色からインスピレーションを受けました。陸と海の間の繊細かつ力強い会話のようなものですね。
ハワイ島ヒロ出身の祖母の影響から、自然や海を愛するタイナさん。ハワイの自然やカルチャーはタイナさんにとってのアイデンティティの一つ。
——「State of Escape」とコラボレーションしたきっかけを教えていただけますか。
そもそもはニューヨークのアートセンター「KINOSAITO」でのアーティストレジデンスプログラムがきっかけでした。そこで私は「Untitled-Ocean floors」という作品を制作しました。「KINOSAITO」デイレクターのイノ・ミキコはアートに対する細部への素晴らしい目とセンスの持ち主ですが、彼女が私を「State of Escape」のデザイナー、ブリジット・マガウアンにつなげてくれました。私は彼女のブランドがどのようなインスピレーションに基づいているかに、深いつながりを感じました。自然のアートワークを追求しながら、この地球をいかに探求するかが、どれほど魅力なのかを共有していると感じたのです。
——自身の作品がバッグとなってお客様が愛用することについて、どのような感想をお持ちですか。また、お客様へメッセージがあればお聞かせください。
とても興奮しています! 現実とは思えません。このバッグを持って旅に出て、たくさん写真を撮って、ハッシュタグをつけてください!(笑)というのは冗談ですが、「自信を持ってあなたらしくいてください」と伝えたいですね。
タイナさんの作品からインスパイアされた「State of Escape」のカプセルコレクション。「Green tide」 、「Aerial earth」とハワイの自然に根差したデザイン。海の火山をイメージした「Blue Lava 」(右下)はRHC ロンハーマンとオンラインストア限定
—— 今後手がけてみたいプロジェクト、人生の夢を教えてください。 また、タイナさんにとってアートとはどのような存在なのかお聞かせください。
すごく大きな質問ですね。でも私には完全な答えがありません。私の夢は、人生において永遠に進化し、変化し続けるものだと思います。私は常に何かを創造し、他の人とつながるためのスペースを持ちたいと思っています。今、映画の制作を手がけていますが、あなたの近くのシアターで公開されるかも。アートは私のアイデンティティと自己表現です。アートが存在しなかったら、私もここには存在しないでしょう。それほど、アートは私にとってはとても大きな意味があるものなのです。
—— タイナさん、ありがとうございました。
「私たちの陸と海をつなぐ深い海底。地球の波動は私たちをどのように育んでくれているのでしょう」。最後にタイナさんは「State of Escape」のコラボレーションに込めた思いを口にした
Profile
タイナ・ラロット Taína Larot
アーティスト、クリエイティブプロデューサー、パフォーマーとして、サンフランシスコとニューヨークをベースに活躍。「束縛がアイデンティティを生み出す」という信念がクリエイティビティの源。10 年以上にわたるティーチングアーティストとしての経験を生かし、若いクリエイターの生活を向上させることに力を注いでいる。2019年、パートナーのKia LaBeija(キア・ラベイジャ)とともに、「クリエイティブ・キャピタル賞」を受賞。現在、二人で初の長編映画を制作中