太陽に輝くキャデラック、アスファルトのスケートボード、ビーチへ向かうサーファー、路地裏のバスケットコート、暗闇で点滅するネオンサイン、庭に咲くヴィヴィッドな花々——
記憶の彼方にあるノスタルジックなカリフォルニアの日常。現在、ロンハーマン千駄ヶ谷店では、ジェリー・バトルズさんの写真展 “CALIFORNIA SOUL” を開催。世界から注目される写真家が、ホームタウンへの郷愁を込めて作品をキュレーションしました。今回のエキシビションのために来日したジェリーさんにインタビューをしました。
ロンハーマン千駄ヶ谷店で開催中の “CALIFORNIA SOUL” では、ジェリー・バトルズさんが厳選した 31 枚の写真を展示。3 月 8 日(水)まで楽しむことができる
——まずはジェリーさんのプロフィールについて教えていただけますか。
僕の名前はジェリー・バトルズ。3 人の娘の父親だ。娘たちからはインスピレーションをもらっている。現在、妻と子どもたちとオレゴン州ポートランドで暮らしている。カリフォルニア州のフレズノで育った僕は一人っ子で父に育てられた。僕の人生 はスケートボード、ローライダー(車高短のカスタムカー)、グラフィティ、バイク、ギャングカルチャー、カリフォルニアを 出て旅に出る夢などが常に入り混じり合っていたんだ。
——写真家を志したきっかけは。キャリアはずっと順調だったのでしょうか。
僕はずっと写真にひかれてきた。17 歳の時に写真を撮り始め、一度もやめたことはない。写真の記録性やストーリーをつくる側面に触発されて、かかわりたいと思うようになったんだ。写真は長いゲームだったといえるね。ようやく写真で暮らせるようになったのは2013年のことだ。それまでは別の仕事をしていて、チャンスがあれば撮影していたんだ。だけど、僕の目標は写真家になることであり、あきらめようとしたことは一度もなかったよ。
エキシビションの準備のために来日したジェリーさん。1 週間ほどの短い滞在ながら、お気に入りの日本での時間を楽しんだ
——なるほど。写真家として活動できるようになったターニングポイントは。
ターニングポイントとなったのは2012年にパリに移住したことだね。僕の人生の中で本当に写真だけに集中できた時間だった。 パリではファッションウィークの撮影をして、ハイブランドとの関係を築き始めたんだ。それがきっかけで、ファッション雑誌から撮影の仕事が舞い込むようになり、活動の幅が広がっていったのさ。
——カリフォルニア州立大学を卒業してから、すぐフランスに移住したそうですが、きっかけは。
2010年にフランスでひと夏を過ごしたことがあって、それから僕は一刻も早く戻りたいと考えていたんだ。妻がフランス人とのハーフで、いとこが部屋を貸してくれることになった。アメリカにいる理由もないので、お金を貯めて行くことにしたんだ。それが写真に集中できる絶好の機会になったというわけさ。
ストアの閉店後にロンハーマンのスタッフとともに写真を展示。自身の作品に向ける真剣な眼差しが印象的だった
——写真家として一番影響を受けた人物やモノはなんですか。
僕の人生そのものだね。毎日、記録したいことやおもしろいと思うことを見つけていた。アーティスト、音楽、様々な文化……。 特にスケートボード、グラフィティからは大きな影響を受けた。
——撮影する際にもっとも大切にしていることを教えてください。また、自分から見て “Jerry Buttles “とはどのような写真家だと思いますか。その作品の特徴は。
フィーリングが大切。そして、興味を持つこと。どのような写真家か……。ドキュメンタリーフォトグラファーでジャーナリスティックフォトグラファー。作品の特徴は、純粋で独特で、生々しくて、自然で、興味深くて、感動的で、我慢強く、革新的。
繊細かつピュアな作風は、ジェリーさんの写真へのひたむきさから生まれる
——現在、ポートランドでどのようなライフスタイル、創作活動を行なっていますか。
僕のライフスタイルは、まず 3 人の娘の父親であるということ。僕たちはできるだけ外で時間を過ごすようにしている。常にカメラを持ち歩くようにしているね。正直なところ、ポートランドという街や被写体は、それほどそそられない。でも、あちこちでちょっとしたものが撮れるので、それはそれで楽しいかな。
一番いいところは自然へのアクセス。木々に囲まれているし、1時間ほどでビーチにも行くことができる。ここは本当に美しい土地だ。この10年間は大都市で暮らしていたので、都会から離れて良かったと思っている。でも大都市のたくさんのストリートカルチャーや生活の動きが恋しくなることもあるね。
——ジェリーさんは日本でも撮影を行なっています。日本にはどのような印象を持っていますか。
日本は僕の心の中の特別な場所にある。清楚で刺激にあふれる国だ。すべてが均一でクリーンなところがいい。どんなルールも守られている。僕はいつもおもしろいものを見つけて撮影している。この国には背景や質感が無限にあるからね。同時に好奇心をそそられるものがたくさんあるし、写真家としてたくさんの個性も見える。人々の美しさや強さをとらえる日本独自の表現方法がある。僕はその勤勉さと規律の良さに敬服しているよ。
「花は創造力を呼び起こしてくれるから好きなんだ」とジェリーさん。今回のエキシビションで一番のお気に入りがロサンゼルスの個人宅の庭で撮影した右の作品。「武骨なコンクリートと繊細な花のコントラストが気に入っている」
——今回のロンハーマンの写真展への意気込みを教えてください。また、お客さまへメッセージをいただけますか。
このエキシビションはとても満足している。作品のセレクションは素晴らしいし、ロンハーマンはそれを見せるのに完璧な環境だ。ロンハーマンが僕を起用してくれたことは光栄だし、とても感謝している。ここにある写真すべてが僕の内側にある感情を呼び起こし、僕の魂に響くもの。このエキシビションが、みんなに幸せや平和をもたらしてくれるとうれしいね。
——今回のエキシビションのタイトル “CALIFORNIA SOUL” にも “魂” という言葉が入っていますね。
今回、展示しているすべての作品に僕の魂が込められている。魂とは自分自身の表出でもあるからね。僕が育ったカリフォルニアとは切っても切れない縁がある。この街を思い出すときに感じる心の動きを表現した作品をキュレーションしたのさ。明るく、夢のような色彩、親密な時のつながり……。カリフォルニアはすべてなのさ。
今回展示している 5 作品をフォト T シャツとトートバッグにして限定販売
——最後の質問です。ジェリーさんにとって “写真” とは。
難しい質問だね。僕にとって写真は思い出でありフィーリング。人生そのものと言っていいだろう。毎日写真を撮っているからね。特に携帯で、僕の人生や僕の家族の生活を記録している。でも、すべてを写真に収めるべきではないと思う。時には一日中街を歩き回っても、一枚も写真を撮らなかったりする。そこには感じるものがなければならないし、僕の興味をかき立てるものがなければシャッターは切らない。僕の中の何かを突き動かすもの。それは木かもしれないし、クルマかもしれないし、モーターオイルの混ざった道端の水たまりにできた虹かもしれない。
——ぜひ多くの方に、写真展に足を運んでほしいですね。ジェリーさん、どうも、ありがとうございました。
エキシビションのタイトル “CALIFORNIA SOUL” の文字通り、故郷のカリフォルニアはジェリーさんにとって “魂” そのもの。
「California is everything.(カリフォルニアはすべてなのさ)」
Profile
ジェリー・バトルス Jerry Buttles
1986 年生まれ。アメリカ西海岸を拠点に、コマーシャル、ファッションを中心に世界的に活躍している写真家。カリフォルニア州立大学を卒業後、渡仏して才能を開花。大手スポーツメーカーや一流メゾン、国際的なIT企業に作品を提供している。米国と日本で個展を開催し、写真集『Almost Home』、『Sun Child』を出版