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Japanese Modern “Isamu Kenmochi”

Japanese Modern “Isamu Kenmochi”

Ron Herman Journal

Issue 116Posted on Nov 07.2025
「ジャパニーズ・モダン」——今、デザインの世界で、もっとも注目を集めつつある潮流の一つです。言葉通りに解釈すれば“和風+モダン”という意味になるでしょう。ですが、その根底にあるのは、単なる足し算ではなく、日本の伝統的な美意識やマテリアルと現代的な感覚・ライフスタイルを掛け合わせて、新たなデザインに昇華させるという日本人クリエイターたちの挑戦的な試みです。現在では、その領域はファッションやプロダクト、家具や生活雑貨など、多岐にわたっていますが、そのルーツをひもとくと建築とインテリアにいき着きます。ロンハーマン リビングでも、ジャパニーズ・モダンに着目しています。



「ジャパニーズ・モダン」の礎を築いたデザイナーの一人である剣持勇(けんもちいさむ)氏。不朽の名作となる数多くのプロダクトやインテリアを後世に残し、チャールズ&レイ・イームズ夫妻、イサム・ノグチ氏とも親交を持ちながら、世界にジャパニーズ・モダンを広めた


1950〜70年代、戦後から高度経済成長期にかけて活躍した建築家・丹下健三(たんげけんぞう)氏。モダニズム建築の大家であるル・コルビュジエ氏に師事しつつ、「伝統とは、過去の形を守ることではなく、未来の創造に生かす力のことである」という独自の哲学とともに、日本の美を自らの建築デザインと融合させました。その革新的な作品から、アジアで初めて世界建築史に足跡を残した建築家と評されました。その巨匠と歩みをともにしたのが、剣持勇(けんもちいさむ)氏です。丹下氏は建物という器(エクステリア)を設計しましたが、その中身(インテリア)がともなってこそ建築は完成される、という考えがあったのでしょう。丹下氏が手がけた多くの建築のインテリアを託したのが、剣持氏でした。民芸や伝統工芸の手仕事を尊重しながら、現代生活にふさわしいプロダクトや家具を世に送り出してきた剣持氏。二人の足跡は、まさにジャパニーズ・モダンの歩みといってもいいでしょう。


今回の復刻した4作品のカーペットは、1971年に竣工した京王プラザホテルのためにデザインされたもの。このホルスタイン柄は客室で使用され、剣持デザイン研究所と縁の深い著名なテキスタイルデザイナー藤本經子(ふじもとつねこ)氏が特別に手がけた

プレジデンシャルルームのためにデザインされたカーペット。シンプルなデザインながら洗練された雰囲気が漂う。パイル長は12mmと今回のコレクションの中では短毛だが、凝縮されたウールが重厚感を生み出している


今シーズン、ロンハーマンのリビングがセレクトしたのが、剣持氏がデザインを手がけたカーペットです。見るからにラグジュアリー感と上質さを醸し出すテクスチュア。都会的な雰囲気を漂わせるソリッドなモノトーン。円形を重ねることで無限の広がりを表現するモダンアートのような一枚。ポップアートやモダンファニチャーのモティーフとしても人気のホルスタイン柄……。どれも前衛的でユニークな作品です。実は、すべてが1971年に制作されたデザインを忠実に復刻したカーペット。と、お客様にお伝えすると、多くの皆さんが驚かれます。半世紀以上前のデザインですが、その魅力は廃れることなく、むしろ、時を経て今の時代で輝きを増しているようにも感じます。


京王プラザホテルのエントランスロビーを彩る剣持氏のカーペット。部分ごとに手法がすべて異なり、70年代の技術の粋が詰まっている。剣持氏は1971年に亡くなったため、このコレクションが遺作の一つとなった

剣持勇氏は、海外で流行しているインテリアデザインの追随ではなく、日本ならではの物づくりを追求しました。単なる懐古主義ではなく、温故知新によるクリエイション。竹・和紙・籐・漆など伝統素材を用いる手法などにより、日本の自然環境と生活文化を国際的なモダニズムデザインの文脈の中で昇華しようと試みたのです。その情熱は、志を同じくする同時代の著名なデザイナー渡辺力氏や柳宗理氏、彫刻家イサム・ノグチ氏からも大きな支持を集めました。


一見すると単色のようだが、複数色の糸を組み合わせており、奥行きと温かみのある表情を生んでいる。剣持氏の細部にいたるこだわりが伝わる

これらの作品は、都内の有名ホテルが記念すべき竣工にあわせて剣持氏に特別にオーダーをしたものです。当時から、その唯一無二のデザインは各界から高い評価を得ていましたが、残念ながら時を経て消失してしまいました。日本の貴重な文化遺産をよみがえらせ、現代にその息吹を伝えたい。そのような意欲的なプロジェクトから、このコレクションが命を吹き返したのです。製造は以前と同じファクトリーに依頼。当時を知るクラフトマンのディレクションのもと、ていねいな手仕事により、意匠はもちろん、繊細な風合いと色味も忠実に再現。単なる復刻ではなく、時代を超えて引き継がれたオリジナル作品といっていいでしょう。


復刻プロジェクトが実現したのは、当時と同じファクトリー「オリエンタルカーペット」の協力による。剣持氏のデザイン思想を引き継ぎ、毛足、織り、配色にいたるまで、糸づくりから染色、織りの仕上げのすべてを熟練の職人が手作業で一貫生産している

時代や流行を超えて、「本物」をお客様にお届けしたい。今回、私たちロンハーマンの理念と、このコレクションの背景が、ピタリと重なりました。大切にしていただければ、何代にもわたって愛用できるカーペットです。時とともに、その魅力と価値はさらに増していくことでしょう。皆さんとともに、「文化の継承」のお手伝いができれば嬉しい限りです。今後も、ロンハーマン リビングでは、ジャパニーズ・モダンにスポットライトを当てていきたいと考えています。



2025年11月9日(日)まで千駄ヶ谷店でカーペットのオーダーイベントを開催している。生産元でメインテナンスも対応しているので、末長く愛用できる。時代とともに、その稀少性は高まっていくだろう



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