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Jean Andre

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Ron Herman Journal

Issue 52Posted on Sep 16.2022

ファッション界のみならず、音楽シーンからも注目を集めるグラフィックデザイナーのジャン・アンドレさん。多くのブランドにアートワークの提供やレーベルのアートディレクションを務めるなど、地元のフランスのみならず世界的に活躍をしています。また、人気のタトゥーアーティストという一面も。ロンハーマンとは2015年春夏シーズンに初めてのコラボレーションを慣行し、今回の2022年秋冬が3度目のコラボレーションになります。さて、どんな経歴の持ち主なのでしょうか。ジャンさんに話を聞きました。



ジャンさんのグラフィックとタトゥーは密接にリンクしている。パリのモンマルトルにあるアトリエにはタトゥースタジオが併設されている


——まずは、ジャン・アンドレさんのプロフィールを教えていただけますか。


今、36才で妻と息子と3人でパリで暮らしている。育ちはフランスの田舎で大家族だった。普通の子供時代だったと思うよ。でも、とても人見知りで、一人で絵を描くことに没頭していたんだ。今は人とコミュニケーションすることもおっくうではなくなったけれど、とにかく子供のころは他人とかかわることを極力避けていた。そんな感じで絵ばかり描いていたから、両親が僕をアートスクールに入学させてくれたのさ。専攻は公告と情報デザイン。卒業後、広告代理店に就職した。アートディレクターとして働いていたけど、広告業界というのは実に複雑で、大金がうごめき人のかかわりもやっかいで、心が休まることがなかった。そんな世界で生きていくのはうんざりで耐えられなくて会社を辞めて、また絵を描き始めたんだ。5、6年アーティストとして活動していて女性のヌードを多く描いて、展覧会で発表していた。その後、妻と出会ってさすがに女性のヌードを描くことはやめたけど(笑)。



「インスピレーションを受ける要素は幾つかあって、それがミックスされていくんだ。子どものころの思い出、旅した場所。そして、人と顔を合わせた交わり。仕事仲間だけではなく、街で出会う人々などもね」とジャンさん


——タトゥーアーティストとして活動を始めた理由は。


結婚してしばらくして、アーティストはやめてディレクションの仕事に切り替えた。僕はそれほど絵を描くのは上手ではないのがわかっていたので(笑)。それに、自分の両親が子供のころに離婚しているという理由もあって、家庭を守りたいという強い意志があったんだ。家族との時間を最も大切にしたいと思ったのさ。それで家族のために安定した生活を望んで、2018年5月にモンマルトルにタトゥースタジオをオープンした。今は週3日、このスタジオで働き、後は家で子育て。機械で彫るタトゥーではなく、スティック・アンド・ポウクという手彫りにこだわっている。客が多くなってきたので、僕以外の二人のタトゥーアーティストに、僕がデザインしたものを彫ってもらっているんだ。だから、今はグラフィックデザイナーとタトゥーデザイナーの両方の仕事をしている。大きなクライアントと契約できたから、仕事は順調だよ。



今回のロンハーマンとのコラボレーションでは、「RH Vintage」のテーマ” Whole Love” をイメージして、新たにジャンさんがグラフィックを描き下ろした


——なぜタトゥーなのでしょうか。タトゥーに魅せられる理由は。


小さいころの僕は自分の体型がコンプレックスだった。ものすごく太っていたというわけではないけれどね。で、タトゥーは自分の見た目を変えることができる、と考えたのさ。だから自分自身で自分の体にタトゥーを彫ったんだ。周りにいたタトゥーアーティスト達をまねてね。だから、今まで一度も図柄や技術を勉強したことはないんだ。今、僕の体には300の小さなデザインのタトゥーが彫られている。僕にとって、タトゥーを彫ることだけが魅力的なのではなく、そのデザインを客と一緒に考えることが楽しい。最も価値あることは、人々とのコミュニケーション。タトゥーをすることで人々の助けになること。タトゥーはとても個人的な出来事。だから、その人が望むものをどれだけきちんと望み通りに仕上げてあげられるか、が重要になるわけ。



フランスに「RH Vintage」のスウェットとデニムを送り、一つ一つ丁寧にアートワークした手間のかかる物づくり。「トラブルがあったりと大変だったけど、大満足だよ」


——影響を受けたアーティストやミュージシャンはいますか。


日本のポップカルチャー! 特定のアーティストではなくそのカルチャー全体。アニメ、食べ物、ビデオゲーム、宮崎駿の映画、諌山創のアニメ、『AKIRA』……。任天堂の大ファンで、『ゼルダの伝説』、『マリオ』など全部好き。日本に4回行ったことがあって、2015年に仕事のパートナーと初めて訪れて、とても気に入ってしまった。日本人の心のやさしさに感動したよ。パリの人達とは大違い(笑)。日本の食は最高だね。あまりに好きすぎて、お気に入りの渋谷の居酒屋のオヤジのタトゥーを腕に彫ったくらい。あっ、だけど、温泉には入れないね、残念(笑)。



ジャンさんがシルクスクリーンで一点一点にハンドプリント。限定数407点、ラベルにはシリアルナンバーが。表情がそれぞれ異なるテイストはアナログならでは


——それは、とてもうれしいですね。今回のロンハーマンとのコラボレーションについての感想を教えていただけますか。


今まで3回ほどコラボレーションをしてきたけど、デザイナーにとって自由がある。本当の自分を表現させてくれるんだ。なぜそれが大事かと言うと、それこそが僕が今まで歩んできた道だから。やりたいことをやってごらん、と言ってもらえる寛大さは素晴らしいしね。自由でいられることは本当にありがたいよ。“Whole Love”は、僕の仕事のテーマそのものさ。僕がつくり上げてきている作品はすべて“Love”に基づいている。今回のコラボアイテムはすべてに愛を込めて、最高のものを生み出そうと努力した。楽しみにしていてほしい。


——ジャンさん、ありがとうございました。



「アートという言葉にはあまりいい印象がないんだ。マーケットつまりお金とつながったイメージがあるから。クリエーションという言葉の方が好きだね。いいものをつくり出す人こそがクリエーターさ」


Profile
ジャン・アンドレ Jean Andre

1986年南フランス生まれ。タトゥーアーティスト、グラフィックデザイナー。「コレット」や「バンズ」をはじめとする様々なファッションブランド、「ル・ピガール・ホテル」のアートワーク、レコードレーベル「エド・バンガ―」のアートディレクターなど、多岐に活躍する

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