地産地消ーーここ数年で、私たちの暮らしに、すっかり馴染みのある言葉になりました。地元で育てられた農産物を地元で消費する。身近な生産者へ貢献でき、手がけている方の顔もわかるから、地域への愛着がわく。遠くまで流通させないので、CO2も削減できて環境負荷が少ない。そして、何よりも新鮮でおいしい。
ジョン・パトリックさんらしいシンプルさと上質が融合した「the BEAUTIFUL」。「私が何よりも大切にしていることは、自分の作品をお客様にどのように感じていただけるか。私のドレスを着ることで、エレガントで洗練されたスタイリッシュな自分に対する驚きを感じてほしいのです」
服づくりでも「地産地消」ができるのでは。想像するだけで、素敵で楽しそう。今回、紹介する「the BEAUTIFUL」は、私たちのそんな好奇心からスタートしたのです。さて、パートナーとなるデザイナーは誰がいいのだろう。これまで、ロンハーマンは数多くの才能あふれるデザイナーとコラボレーションをしてきましたが、みんなの頭に浮かんだのは同じ顔でした。
ジョン・パトリックさん。オーガニックコットンを使った服づくりの先駆けの一人で、2004年、「ORGANIC BY JOHN PATRICK」(オーガニック バイ ジョン パトリック)を立ち上げました。以後、フェアトレードの素材を使用した、長く着ることのできるシンプルながらも上質なワードローブを展開しています。
「地産地消」というテーマから生まれた「the BEAUTIFUL」。可能な限り顔が見える生産者の素材を使用し、流通の環境負荷を低減するために国内で生産した
ジョンさんは、1982年、帽子のデザイナーとしてキャリアをスタート。以後、40年近くニューヨークを拠点にファッション業界の一線で活躍してきました。ジョンさんが転機を迎えたのは、2001年、アメリカ同時多発テロ事件を目の当たりにしてから。ワールドトレードセンターが崩れ落ちる光景にショックを受け、これからの価値観、社会、経済、そしてファッションのあり方を自問するようになったのです。「ファッションの未来に対する私のビジョンは、サステナブルなビジョン、つまり購入してくださった服を着続けてもらうということ。私たちは、より少ない量でよりよいものをつくる必要があります」とジョンさん。その「サステナブル」なビジョンを実現するカギになると考えたのが、オーガニックコットンでした。
ニューヨーク郊外、自然豊かな環境に暮らしながらクリエイションするジョンさん。「地に足が着いていると感じたい時は、菜園のトマトの世話をすることにしています。その感覚が私の創造性を高めてくれるのです」
「当時、オーガニックコットンを使った製品はベッドシーツくらいしかありませんでした。だから、全財産をつぎ込んで世界で初めてのすべてオーガニックな素材の生地を生産しました。誰も協力してくれなかったから、自分でやるしかありませんでした」
ロンハーマンがジョンさんとお付き合いをするようになって10年が経ちます。毎年、ニューヨークのジョンさんのもとを訪ねますが、オーガニックそして服のクリエイションのことになると、ジョンさんはまるで少年のように目を輝かして思いを語ります。服づくりの熱意はずっと変わらず、今でも「僕はオーガニック業界のジョニー・アップルシード(伝説的なアメリカ開拓者の一人)になりたいんだ」と夢を口にします。
廃棄予定の野菜や食材から染められたフードテキスタイルを使用。ボタニカルダイと異なり色落ちしにくく長年にわたり美しい色合いを楽しむことができる
ジョンさんだったら、私たちの「地産地消」のチャレンジに協力してもらえるのでは。予想通り、二つ返事で「イエス!」。流通の環境負荷を減らすために、ジョンさんからデザインを提供してもらい、日本で縫製することに。ですが、オーガニックコットンの国内生産量はごくわずか。そこで海外産ながら、農場と紡績工場など生産者の“顔”が見えるトレーサブルなオーガニックコットンを使用。オーガニックコットンを選ぶということは、実は生産者を農薬などの健康被害から守ることでもあるのです。また、染めには廃棄予定の野菜や食材で染めたフードテキスタイルを採用しました。
やがて、「the BEAUTIFUL」ができあがってきました……。想像通りの素敵な仕上がり。シンプルながらも絶妙な着丈やバランス感、ちょっとした遊び心。そして、ナチュラリストのジョンさんらしいクリーンでヘルシーな装い。何年時を経てもずっと楽しめる、名前通り本当に美しい服が誕生しました。
ジョンさんのクリエイションは無駄のないシンプルさと上品さが特徴。だが、そのデザインは細かいところまで計算しつくされている。縫製の現場では、その緻密さに驚きの声があがっていたそう
「『the BEAUTIFUL』を手に取るすべての人に、ファッションを純粋に楽しんでいただきたい。そして、自身の身につけるものの背景やかかわる人の幸せについて、興味を持っていただくきっかけになればと願っています」とジョンさん。
ロンハーマンの地産地消の服づくりは歩みを始めたばかり。次の一歩にもご期待下さい。
デザイナーとして40年近くのキャリアを持つジョンさん。だが、服づくりへの純粋さと情熱はますます高まっている。「私の服を着てくれることに、いつも感謝して光栄に感じています。私の服は着るために作られているので、どんどん身につけてください。貴重品のように扱う必要はありません」