彩りも豊かな花々がつぼみをほころばせて、新しい生命力に満ちています。色鮮やかなハトたちが一輪の花を誰かに届けようと、大空を羽ばたいています。「TANAKA」(タナカ)の今シーズンのコレクションを目にすると、心が温かく身も軽やかになるから不思議です。ロンハーマンは「世界で活躍する日本人」という切り口で、世界的に注目されている才能あふれる日本人デザイナーにスポットライトを当てるプロジェクトに取り組んでいます。TANAKAのデザイナーのタナカサヨリさんも、その一人。展示会でこの服と出会ったときのワクワク感をお客さまにも伝えたいと、今シーズンからロンハーマンで紹介することになりました。
今シーズン、ロンハーマンに新しくお目見えした「TANAKA」(タナカ)。インラインのデニムトラウザーのフラワーモチーフに併せて、同じデザインのワークジャケットを別注オーダーした
タナカさんは、2017年、ニューヨークでTANAKAをスタートさせて、現在もブルックリンをベースに活動しています。アメリカの有名セレクトショップの多くの店頭に並び、ヨーロッパでもパリで展示会を開催するなどワールドワイドで人気が高いブランドです。さて、タナカさんはどのような方なのでしょうか。コレクションのために東京に戻られた本人を訪ねることに。スタジオで迎えてくれたタナカさんは、ご自分の「服」と同じような温かいやわらかさを身にまとっていました。笑みを絶やしませんが、服づくりに関する話になると、その眼差しに芯の強さが宿ります。
TANAKAのデザイナー、タナカサヨリさん。祖父はガーデナー、父親は洋画家と、クリエイティブな血筋を受け継いで服づくりの世界へ。柔和な物腰だが、デザイン、自身のブランドの話になると、真摯な思いが言葉にこもる
「前職の関係で、ニューヨークに10年ほど暮らしていました。この街はいろんな人種の人々がいてカルチャーも単一ではなく、ジェンダーや年齢という境もない、本当にボーダレス。その感じと自分が今まで積み上げてきたキャリアが、うまく重なり合ったら面白いブランドになるかな、というのがTANAKAのスタートのきっかけです。ですので、ニューヨークの街からインスピレーションを得たブランドというところは、すごく大きいと思います。この街にいると、自分の中に何か違うものをインプットできます。結局、自分を通してしか発想はできないので、いかに自分自身がフレッシュでいられるかが大事なんです」。ジェンダーレス、エイジレス、縛りがない価値観や思想、そのような肌感覚で得たダイバーシティを内包しつつ、タナカさんが自らのブランドの柱としたのが、「今までの100年とこれからの100年を紡ぐ服」です。
「ワークジャケットはユニセックスなデザインですが、女性もカーディガンのようにリラックスして着られます。インラインのパンツとセットにしてもいいですが、薄手のロングスカートとカラフルなキャミソールともかわいいのでは」とタナカさん
「自分で一からブランドを立ち上げるとなった時に、どんなものを新しく生んでいくべきなのか、すごく考えました。ニューヨークの前は上海に住んでいて引っ越しする際に、物を整理しなければなりませんでした。すると、洋服棚の中に要る服と要らない服が出てしまった。要らない服って、何て寂しいんだろう……。自分でブランドを新しく立ち上げるなら、お客様のタンスにずっと残るような服をつくっていきたい、と思いました」。アメリカでは、2010年代初期から「サステナビリティ」が強く叫ばれていました。タナカさんはトレンドに左右されない「時を経ても色褪せないデザイン」つまり「これからの100年を紡ぐ」服づくりをすることで、それにこたえようとしたのです。
クラフトのディテールまで大切にするタナカさん。「セルビッチデニムというローホワイトのデニムを使っていますが、本来だったらさらして真白にしてしまうところを、無染色で天然の風合いを生かしています。すごく狭幅の織機で織るので、しっかりめの風合いですが柔らかく仕上がっています」
では、「今までの100年」という言葉に込められた思いは。「ルーツがある服に対してのリスペクトです。その服が生まれた理由を知った上で、自分たちの服づくりをすることがとても大事だと思っています」。一方でタナカさんはゼロから発想する、思考から発想するコンセプチュアルな服づくりにも力を入れています。ある意味、「両極端」といえるこだわりを結びつけているのが「デニム」とタナカさんは語ります。「今、自分の中の軸となっているのがデニムです。歴史があり既にベースが整っている生地ですが、いかにそれを新鮮なものに見せられるかという発想もできるのではないかと。デニムを製品としてだけでなくてアートとしてとらえるなど、いろんなデニムの可能性を、ブランドとしてすごく追求しています」。
服づくりの拠点を国内に置くTANAKA、職人かたぎのものづくりをする日本のデニムはヨーロッパを中心に評価が高く、その強みをブランドのコアにしている。今回のステンシルもチームによるアトリエワーク。絶妙な個体差がそれぞれの表情に。自分好みの一枚を見つけてみては
「それにデニムは『自由の象徴』じゃあないですか。デニムのそういうところが好きなんですよね」と、かたわらのジャケットに目をやりながら微笑みます。そう、タナカさんは自分が手がける服に、さまざまなメッセージを込めているのです。「ハッピー」、「ピース」、「ラブ」……。人々を勇気づけ、前向きに生きさせる、かけがえのないもの。「ニューヨークにいるといろんな国の人がいるので、自分の友達や誰かの友達の国は戦争しているというシチュエーションがすごく身近にあります。自分は服をつくるデザイナーなので、服やファッションを通じて、そういったメッセージを発信できれば」。
TANAKAのシグネチー・アイテムのデニム。デニムウエアのルーツ、成り立ちを大切にしながら、未来へ向けて新しい可能性を模索する
その思いが昇華したのが、今シーズン登場したデニムジャケットやトラウザーです。「このコレクションをデザインするに当たり『BLOOM』(「ブルーム」花・開花の意)というキーワードが自分たちの中にありました。これまでコロナ禍が皆さんの生活を変えたし、とても大変だった時期だったと思うんですけど、それが解放されてようやく花開く時期になっていけばという希望を込めました。後はさっき言ったように、フラワーチルドレン(1960年代、花を平和の象徴として反戦を訴えたヒッピーたち)の意味合いも含めて、フラワーモチーフなどを用いたハッピーなアプローチをしています」。
自身の名前を冠したTANAKAというストレートなブランドネームに、デザイナーとしての自信と自負を感じさせる。ロンハーマンには登場したばかりだが、既にファンになったお客さまも多数。来シーズンのコレクションが楽しみだ
「せっかく着るのであれば、その日、その人の気分をハッピーにしてくれたり、着ることで自信が持てたり、応援するものでありたいと思っています」と微笑むタナカさん。その笑顔こそ、TANAKAの不思議な魅力の源泉なのです。ジャケットを羽織って、お出かけを。足取りが軽やかなのは、みずみずしい春風に背中を押されているからだけではないでしょう。太陽の下で、花々がより生き生きと輝いて見えるはずです。