「みんな これから いろんな ものや ことを たくさん けいけんします アルファベットは せかいへの いりぐちです さぁ じゆうで たのしい せかいへ たびしよう」。表紙を開き、この言葉に導かれて、ページをめくっていくと、次々と新しく楽しい世界が生まれていきます。A、B、C……。アルファベットの一文字一文字を頭文字にした単語と、それをモティーフにした心温まる絵。「これはどういう意味?」。ページを見つめる子どもたちは、ストーリーを思い描き空想の旅へ。いや、子どもたちだけではありません。私たちもこの絵本を目にすると、自然と笑みが浮かんできます。
2月3日(土)、豊田弘治さんが手がける絵本『ロンハーマンのABCブック』をリリース。絵本のために制作した原画をロンハーマン二子玉川店にて3月10日(日)まで展示
『ロンハーマンのABCブック』。この2月に出版されたアーティスト豊田弘治さんによる絵本です。2019年に豊田さんが手がけた『ロンハーマンの絵本』の続編になります。前作は「あかさたな」をハートフルな動物の絵で楽しく描き下ろして、世代を超えて人気に。新作を待ちわびる声も大きかったのですが、コロナ禍が落ち着いた今、ようやく実現することができました。
日本のサーフアーティストの先駆けとして知られる豊田弘治さん。1997年、カリフォルニア、ハンティントンビーチのインターナショナルサーフィンミュージアムで初のエキシヴィジョンを開催。以後、ホームタウンの大阪をベースに、サーフィンという枠を超えてさまざまなジャンルで活躍を続けている
「前作の評判はとてもよかったです。親子で喜んでもらえたので、ちゃんと人のためになったのかな、という感じです。だから今回も、さらに前を向けていけました。すごくうれしいですね」と、豊田さんは感想を口にします。豊田さんの作品が人気の理由は、明るい色彩とハッピーな題材でしょう。絵本を見ると、元気がもらえるという声もたくさん。
原画ではミシンを使ったステッチを用いて繊細なタッチを表現。どの作品も表情が異なるが、豊田さんがつくり出すピースフルな世界は同じ
今回、アルファベットをテーマに選んだ理由はなんでしょう。「英会話の基になる部分なので、子どものうちからしっかりと覚えてほしい。だけど、学校の英語の勉強の感じやったら面白くない。楽しかったら、どんどん覚える。僕が子どものときも、学校で覚えるよりも英語の歌で覚えていったような気がする。そういうノリで、覚えてほしいなと思ってつくったんです」。
原画展では絵本の作品の他に、ウォール・オブジェクトも展示。原画と同じく購入もできる
楽しく学べる英単語の絵本。世の中には、このようなコンセプトの児童書はたくさんあります。ですが、『ロンハーマンのABCブック』には、豊田さんならではの思いがこもっています。「たいていの絵本は、AはAPPLE 、BはBEAR、CはCATとか、だいたいがモノの名前なんです。僕とロンハーマンさんとは10年ぐらい一緒にやっていますが、お互いが大切にしているワードがあります。ENJOY、HAPPY、DREAM……。そういう“感情”をどうしても入れたかったんです」。
原画展の初日には豊田さんの手ほどきによるキッズ・ワークショップも開催された。「楽しいけど、子どもらが元気すぎて年なのでしんどい(笑)。だけど、子どもたちからエネルギーをもらっています」と豊田さん
なるほど。子どもたちが大好きなアイスやオレンジ、レインボーという単語の中に、NICEやLOVE、THANK YOUなど感情や気持ちを表すワードがちりばめられています。目に見えないもの、心の中のことを、絵にすることはとても難しいことです。増して、それを楽しく子どもたちに伝えるとなると……。きっと豊田さんだから表現できるのでしょう。A~Zの26の絵と言葉。家族みんなで、お気に入りのアルファベットを見つけるのも楽しいでしょう。さて、豊田さんのお気に入りは? 「どれやろな……。どれも僕にしたら、愛情たっぷりな自分の子どもみたいなものなので」と困り顔。「けど、今はPEACEかな。ずっと地球では戦争をやっている。だから、やっぱりそれを願っています」
手がける作品と同じく柔和でやさしいキャラクーの豊田さん。これからも子どもたちを楽しい世界へいざなってくれることでしょう
絵本の最後は、次の言葉で締められています。「じゆうに たのしく たくさんわらって きょうも すてきないちにちに…… TODAY IS BEAUTIFUL あなたは みんなの たからもの」。豊田さん、そして、私たちの思いが、この一冊に込められています。