Journal

Vintage (I’M OK)

Vintage (I’M OK)

Ron Herman Journal

Issue 102Posted on Oct 08.2024

時を超え、年代を重ねていくにつれて、輝きを増していく「ヴィンテージ」。世界に一つしかないアイテムを手に入れるのは、運命的な出会いといってもいいでしょう。そんな貴重な場が、この10月に千駄ヶ谷店と京都店のインショップ「I’M OK」(アイムオーケー)に「Vintage Object Pop Up Event」(ヴィンテージ・オブジェクト・ポップアップ・イベント)と題して、お目見えします。これまでもI’M OKはヴィンテージアイテムをラインナップしてきましたが、今回は北欧、アメリカそして日本と世界から素敵なヴィンテージアイテムが一堂に。キュレーションを手がけたのはロサンゼルス、ハリウッドに本店を構える「OK the store」のオーナー、Larry Schaffer(ラリー・シェーファー)さん。そのセンスあふれる審美眼は、西海岸でも指折り。バイイングのために来日したラリーさんに、ヴィンテージの魅力、そして、今回のセレクションについてお聞きしました。

 

ロサンゼルスの「OK the store」のオーナーLarry Schaffer(ラリー・シェーファー)さん。ラリーさん自らがセレクトした雑貨や家具、文具、書籍などのアイテムを取りそろえる


——ラリーさんは、雑貨、家具、自転車など、さまざまなジャンルのヴィンテージアイテムにお詳しいですが、どこにひかれるのでしょうか。

 

「ヴィンテージ」はタイムレス、時間を超越しています。それは素晴らしいことなんですよ。もしあなたが「これが好き!」という新しいものに出会った時、果たしてそれを今後20年間ずっと好きでいられますか。たとえば、このポットはすでに60年が経過していますが、未だに美しく魅力的で、これから先の60年間も美しさは保たれて愛されていくことでしょう。それは時代の継承なのです。過去から現在そして未来へと続いていくのです。私はヴィンテージが好きですが、レトロなスタイルに興味があるわけではありません。古いものだけれど、今見ても新しいと思えるものにひかれるのです。ヴィンテージは、その時だけの流行ではなく、ずっといつも新しい感覚を宿しているのです。

 

——ヴィンテージに興味を持たれたのは大学時代とのことですが、どのようにして審美眼を養ってきたのですか。

 

当時の私にとって、ヴィンテージアイテムは高価でなかなか手が出なかったのですが、何とか身の丈に合ったものを購入していきました。新しくてもとても素敵なものはありますが、果たして10年20年と使っていくのだろうか、と自問します。途中で処分してしまうかもしれない。その時に素敵だと思ったものをタイムレスに使っていくことができるか。それを見定めることが大事。ヴィンテージを見極める目は、とにかくたくさんのものを見ることから始まると思います。またヴィンテージに関する本も読みますよ。ヴィンテージの目利きの方々が、どのようなコレクションをしているのかがわかりますから。

 

10月から千駄ヶ谷店と京都店のI’M OKで「Vintage Object Pop Up Event」(ヴィンテージ・オブジェクト・ポップアップ・イベント)を開催。ラリーさんのお眼鏡にかなったアイテムが集結。
ラリーさんが手にしているのは、フィンランドの人気テーブルウエアメーカー「ARABIA」(アラビア)、「Kaarna」(カーナ)のポット。深みのある落ち着いた風合いは和の器との相性もよし

 

——今回の「Vintage Object Pop Up Event」ついての感想は。

 

I’M OKでヴィンテージを提供することは、本当に素敵なことだと思います。今、私はヴィンテージに心血を注いでいます。それと同時に今を生きる作家の方々に、ヴィンテージにつながるような工芸品をつくってもらうことにも取り組んでいます。

 

——なるほど。将来的にI’M OKのアイテムがヴィンテージとして評価されるかもしれませんね。Vintage Object Pop Up Eventでセレクトしたアイテムについて教えていただけますか。まずはこのポットについてお聞かせください。

 

「ARABIA」(アラビア)というメーカーがつくっています。フィンランドのとても歴史ある陶器のブランドです。設立当初からこのメーカーは工芸アーティストが試作品をつくるアートスタジオがありました。そこからデザイン部門のスタジオへとつながることで、工芸アーティストの思考をデザイン化して製造部門へとつなげ、工業製品として販売するという工程をつくって大成功しました。このポットのデザインはUlla Procope(ウラ・プロコッペ)というARABIAでは有名なデザイナーによるものです。

 

 

Vintage Object Pop Up Eventのラインナップの一部。(写真左上から時計回りに)ARABIAのプレートは普段遣いにはもちろん、壁にかけてインテリアとしても。コンディション抜群の「PUKEBRG」(プーケベリ)のクリスタルガラス。ともに1960年代製。戦後、日本でつくられアメリカ向けに販売された芸者のオブジェ。人気が高いコレクターアイテム、「DANSK」(ダンスク)の動物をかたどったペーパーウエイト。スウェーデンを代表するデザイナーGunnar Cyren(グンナー・スィレーン)のデザインを、世界随一の金属加工の技術をほこる新潟県燕市で生産してアメリカへ輸出していた

 

——こちらはガラスのプレートのセットですね。

 

スウェーデンの「PUKEBRG」(プーケベリ)のものです。よく見ると、オリジナルのステッカーが貼られています。この小さな食器は塩を入れたり、灰皿としても使うことができます。小さめのアクセサリーを入れる小物入れとして活用するのもいいですね。

 

——芸者のオブジェは、とてもユニークです。典型的な“和”のモティーフですが、“洋”のテイストも感じられて、モダンで洗練されています。

 

いかにもレトロな感じですが、時代をつなぐというより、戦後の一時期をイメージさせるアイテムだと思います。日本でつくられたものですが、アメリカで販売されていました。

 

 日本でも人気の「ROYAL COPENHAGEN」(ロイヤルコペンハーゲン)のミニマグ。1967年より、毎年異なるデザイナーが手がけてリリースしているイヤーコレクション

 

——このペーパーウエイトは動物がモティーフですね。

 

はい。「DANSK」(ダンスク)というメーカーが販売していて、デザインのバリエーションも豊富です。DANSKにはとてもおもしろい歴史があるんですよ。DANSKは「デンマーク風」という意味ですが、アメリカの会社なんです。アメリカ人オーナーが当時国内でデンマークのモダンデザインが人気になりつつあることを知って、デンマークのデザイナーを雇い入れたのです。そして1950年代から60年代にかけて、さまざまなデザイン製品をデンマークでつくらせてアメリカで販売するという流れをつくりました。50年代、60年代は求めやすい値段でしたが、70年代になり価格は急とうしました。このペーパーウエイトは70年代、80年代のもの。実は、日本製なんですよ。

 

——「ROYAL COPENHAGEN」(ロイヤルコペンハーゲン)は、日本でもよく知られていますね。

 

ROYAL COPENHAGENは、とても古い歴史を持つデンマークの陶器メーカーです。1960年代後半あたりから、社内のとても有名なデザイナーを起用して、マグに彼らのデザインをペイントさせるという手法を始めました。一年に一デザインのイヤーズマグで、マグにはつくられた年も記されています。サイズが二つあってこれは小さい方で、お茶やコーヒー用の大きいモデルはビアマグとして使われているようです。

 

 創業者Edith Heath(エディス・ヒース)がデザインした貴重な「HEATH CERAMICS」(ヒース・セラミックス)の灰皿。「食器と異なり灰皿は、釉薬を使わなくても良いので独特の風合いが生まれます。ベージュ色の灰皿は、内側しか釉薬が使われていません」

 

——こちらは灰皿ですよね。

 

「HEATH CERAMICS」(ヒース・セラミックス)のものです。HEATH CERAMICSの創業者Edith Heath(エディス・ヒース)のデザインですね。HEATH CERAMICSはカリフォルニア、サンフランシコ近隣のサウサリートにあるとても大きな伝統的な陶器メーカーです。20世紀終わりまでカリフォルニアにはおよそ50社の陶器メーカーがありました。ヒースは最後の一社なんです。もう長い間、灰皿はつくっていません。まさにヴィンテージですよ。50年代、60年代、70年代は愛煙家が多くいた時代でしたからね。エディスとは90年代から一緒に仕事をするようになりました。当時彼女は80代でしたが、亡くなる前に会社を自分の意志をしっかりと受け継いでくれるご夫婦に譲りました。今もヒース・セラミックスの伝統である昔ながらの製法にこだわって、陶器をつくり続けています。

 

——最後に、ヴィンテージ・アイテムを手に入れたいと考えているお客様へ、メッセージをいただけますか。

 

ヴィンテージの品々を大切に世話をするという気持ちを、持っていただきたいですね。それを忘れないでほしいです。すでにさまざまな持ち主によって大切に受け継がれてきたもので、まだこの先も新たな持ち主に受け継いでほしいと思っています。つくり手の意志や伝統を手にされているのですからね。次の方へつなげていくという気持ちで、所有していただけるとうれしいです。

 

 

 

——ラリーさん、ありがとうございました。

 

 ラリーさんのヴィンテージ愛は10代からと筋金入り。「学生時代、フランク・ロイド・ライトがデザインしたデスクを手に入れました。貯金だけでは足りなくて、母に借金までして。当時のアパートの家具は、そのデスクだけでしたよ(笑)。子どもに引き継いでもらいたいですね」

 

 

 

 



Latest Issue

Back to Index