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CROSS TALK06 “Merlette”  Marina Cortbawi

CROSS TALK06 “Merlette” Marina Cortbawi

Ron Herman Journal

Issue 72Posted on Jul 11.2023

ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。第6回目のゲストは「Merlette」(マーレット)のデザイナーMarina Cortbawi(マリーナ・コートバゥイ)さん。マリーナさんは、2023年秋冬のプレコレクションとともに来日。ロンハーマン・ウィメンズバイヤーの篠崎茜(しのざきあかね)が、クロストークの相手を務めます。


旅立ちのように、身も心も自由で軽やかに


篠崎:「Merlette」はとてもドレッシーなドレスですが、フワッとして軽やかで、まるで風を身にまとっているような着心地で すよね。どこかに旅へ出たい気持ちになります。

マリーナ:そう。まさにアカネの感想が「Merlette」のコンセプトそのもの。お客様がどんな場所にいてもどんな状況にいても、たとえ街にいても「Merlette」のドレスを着ることで、バケーションを楽しんでいる気分になってほしいの。旅に出るとリラックスしてハッピーな気分になるでしょ。まさにそんな気持ちになってほしいわ。

篠崎:確かに「Merlette」は都会でもリゾートでも合いますよね。

マリーナ:例えば、ニューヨークのオフィスワーカーは、1週間働いてくたくたになって金曜日を迎えるの。金曜日に出勤したら、午後はそのままビーチへバケーションに繰り出すこともあるわ。だったら、その日は始めから旅気分の服を身に着けて出勤して、そのまま楽しい旅へ出発してほしい。「Merlette」のブランドコンセプトは「あなたはスーツケースに何を詰め込みますか」という自分への問いかけ。旅に出るのはワクワクすること。だから、あなたが着たい服を持って行く。あなたにとってハッピーな時間には何を着たいか。そんなことを考えながらデザインしているのよ。


ニューヨークから世界へ向けて「Merlette」(マーレット)をリリースしているデザイナーのMarina Cortbawi(マリーナ・コートバゥイ)さん。「都会でもリゾートでも、どんなシチュエーションでも着る人が自由でハッピーな気持ちになれるドレスをつくりたい」


篠崎:マリーナが「Merlette」をスタートしたのは2016年ですよね。

マリーナ:当時アパレルブランドで働いていたけれど、自分自身のブランドを立ち上げたいと思っていたの。そうしたら、主人が私のアトリエにとブルックリンでアパートを見つけてくれて。だけど、それはひどいコンディションで場所も最悪。実はその建物はニューヨークに初めてできたホテルで、地下はナイトクラブだったのよ。お化けがたくさんいそうで怖かった(笑)。でも、主人が手間暇をかけてリフォームしてくれて、とても快適なアトリエに生まれ変わった。すると、ひどいと思っていた周囲の環境も面白く感じて、創作意欲がかき立てられるようになった。自分のブランドを立ち上げるにあたって、私にはちょっと勇気が足りないと思っていたけど、リノベイトされたそのアトリエのおかげで、大丈夫だという自信と力がわいたの。まだ「Merlette」がどんな風に発展していくか自信がなかったので、掛け持ちで働いて仕事が終わったら急いでアトリエに戻りお客様と打ち合わせ、というような生活だったわ。

篠崎:私もうかがいましたけど、とても素敵なアトリエですよね。「Merlette」のコンセプトは当初から変わっていないのですか。

マリーナ:はい。とにかく自由で素直であること。ビジネスでもバケーションでもどんなシーンでもマーレットのドレスを着ていれば、自由でエアリーな精神を持っていられること。体を締め付けることがなくふんわりした感じがする服がコンセプト。以前、私は体にぴったりした服を着ていたのよ。見た目はセクシーだけど、歩くのも大変なくらいのね(笑)。だからこそ、そんなストレスを感じるようなデザインはやめようと思ったの。それでデザインのリサーチを始めたんだけど、特に参考になったのは70年代のフランスのファッション誌。それまでに目にしたことがないヴィンテージなドレスがたくさん載っていたの。やさしくて軽やかに息ができそうな心地よい服。それから、60年代や20年代までさかのぼってリサーチしたわ。



「マリーナは『Merlette』のドレスのようにシックで華やかだけど、飾らない性格。ファッションに傾ける情熱もすごいですね」と、ロンハーマン・ウィメンズバイヤーの篠崎茜


篠崎:20年代というと、今から100年も前ですね!?

マリーナ:当時たくさんのスモックのデザインがあって、私の琴線に触れるものばかり。歴史的でセンチメンタルで、生地が繊細で微妙なデザインと相まってとにかく素敵。だからといって、生地がコットンでウォッシャブルなので、そんなに高価なわけではない。それで私もコットンにこだわるようになったの。質が高くディテールにもこだわり、大切に長く着続けることができる服。シンプルでクオリティが高くて着心地が良くラグジュアリー。それが「Merlette」が求めていること。ニューヨークで出会ったデリー出身の友人のおかげでインドに行くことができたの。たくさんの工場でインド綿を見て、美しい刺繍やいろいろなデザインを目にした。それがきっかけでオーガニックコットンの生地を使うようになったのよ。

篠崎:オーガニックコットンもそうですが、「Merlette」は最高級の自然素材を使用していますね。何か理由はあるのですか。

マリーナ:育った環境が影響していると思うわ。母国のオーストラリアの夏は暑いからコットンが一番心地いい。肌にもやさしいし。母は絶対に私にポリエステルの服を着せなかった。そういう自然な素材がもっともラグジュアリーなのでは。自分で洗濯ができて環境にもやさしいし。着心地と耐久性を考え合せると、高級な自然素材にいきつく。良いものを大切に長く着てほしい。サステナブルという言葉を意識する前から、その思いは変わっていない。



7月15日(土)から発売する2023年秋冬のプレコレクションの鮮やかな色彩に魅せられていた篠崎。「この赤は『Merlette』のオリジナルカラーでポピーに由来しているの。ノスタルジックな感じでしょ。ヴィンテージのファブリックストアで見つけたのよ」と語るマリーナさん


篠崎:ロンハーマンは2017年から「Merlette」とお付き合いを始めましたが、ずっと人気があります。ドレッシーなドレスなのに、着やすくて肌触りが良いというのが一番の理由だと思います。それから洗濯もできて扱いやすいというのも。一度着てみて気にいると、別のデザインや色がほしくなります。「Merlette」があれば他はいらないと思えるような一点物というような存在ですね。マリーナにとってファッションとはどんな存在ですか。

マリーナ:私はファッションを「システム・オブ・コード」と呼んでいるの。単なる「服」ではなく、自分自身を表現すること、「人々へのメッセージ」だと思っている。自分と同じバイブレーションを持っている人たちに、「私」という存在を証明できる。そして、喜び、安心、自由、幸せをも感じることができる。逆もそうよ。魅力的なファッションをしている人を目にしたら、「何て素敵なの!」と心が動かされて感謝したくなってしまう。ファッションにはそんな不思議な秘められたパワーがあるのよ。



2023年秋冬のプレで展開する日本限定コレクションのSoliman dress、Sant Joseph blouse、Bahama mama dressを前に、「日中のカジュアルなシーン、夜の特別なシーン、どちらにも合わせられる。とにかく気軽に自由に着てほしい」とマリーナさん

 


マリーナさんが服づくりに求めるのは、ケアのしやすさと長く着ることができる耐久性。「このドレスはシルクとコットンのハイブリッドだから洗濯ができるの。シルクでも堅苦しく考えずに好きなようにカジュアルに着てほしいわ。スニーカーやブーツと合わせて街を歩くのもいいでしょうね。もちろん、ハイヒールやアクセサリーと一緒でも」


篠崎:私も同感です。自分がどう感じているか、何を考えているのかを表現できるのがファッションだと思います。言葉では表現できないことを表すことができる。ファッションにはパワーや情熱を感じます。コロナパンデミックの後の今は、特に強くそう思います。とりわけ“色”は大事。私はパンデミックの後はモノトーンよりも“色”を身に着けるようになりました。マリーナは今後のファッションの世界はどのようになっていくと思いますか。

マリーナ:今よりもずっとサステナブルになっていることを願っている。ブランドも新しいものだけを打ち出していく形は少なくなって、既に持っているものをさらに進化させたり、ブランド同士がコラボレーションするようになる。「Merlette」もこれからは独自の新しい路線を生み出すのではなく、アクセサリーや靴などは他のブランドとコラボを考えているの。ただ単にコラボするだけでなく、持っている能力を分かち合うことが将来の形になる。生地についても、最初からデザイナーとつくり上げるのが将来のスタイルになるのでは。着る人は試行錯誤してお気に入りの服が見つかったら、それに心酔するもの。今はあまりにも多すぎて選びきれない状態。きっと、さまざまなものが変わっていくでしょうね。AIがいろいろなところに出没して、私の仕事もいずれは取って代わられてしまうかも(笑)。だけど、人の創造性はなくならない。ファッションのパワーにインスパイアされるのは人間にしかできないことだから。

篠崎:そうですね。ファッションの力を信じましょう。今日はどうもありがとうございました。



対談の終わり、インドの話題で盛り上がった二人。「いつかインドへ一緒に旅に行きましょう。『Merlette』を着て」と笑顔を交わしていた


Profile

マリーナ・コートバゥイ Marina Cortbawi

オーストラリア、シドニー出身。大学卒業後、ロンドンでファッション・ビジネスの経験を積み、服づくりを学ぶためにロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチンズとロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでデザインコースを専攻。2010年にニューヨークへ移住。2016年、ブルックリンで「Merlette」を設立

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