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The Innerview 05 : Audrey McLoghlin(Frank & Eileen)

The Innerview 05 : Audrey McLoghlin(Frank & Eileen)

Ron Herman Journal

Issue 47Posted on Jul 04.2022
選び抜かれた上質な生地を使用し、そのシルエットの美しさは卓越。そして、着心地もよく、洗いざらしでもアイロンがけなしで着られるという、デザイン性と機能性を兼ねそなえた「Frank & Eileen」(フランク&アイリーン)のシャツ。手がけるのはデザイナーのAudrey McLoghlin(オードリー・マクローリン)さん。元エンジニアというキャリアと偶然の出会いにっよって、「これまででもっとも素晴らしいシャツ」と称される一枚が生まれました。Frank & Eileenの誕生物語を、オードリーさんに語ってもらいました。
 

今シーズン、ロンハーマンがFrank & Eileenに別注したメンズシャツ「LUKE」。メンズラインでも、レディースシャツで培ってきたノウハウをフィードバックしてより洗練されたスタイルに。上質なコットンポプリンを使用。White、Green、Beige、Grey、Charcoalの5色展開

 
—まずは、オードリー・マクローリンさんのプロフィールを教えていただけますか。どのような環境で育ったのでしょうか。

私の人生の物語は取り立てて目新しいものではありません。25歳のとき、何かを作りたいという強い思いだけで起業の道を歩み始め、数え切れないほどの失敗を経験してきました。私が生まれる少し前、両親は身の回りの物をたった木箱一つに詰めてアイルランドから移住してきました。私が成長すると、その木箱はおもちゃ箱としてガレージに置かれていましたね。父はとてもタフな人で、一緒に暮らすのは楽ではありませんでしたが、エンジニアだったこともあり、幼いころから数学が好きな私を励ましてくれました。母はいつも、もし私がエンジニアリングを専攻したら、その後は文字通り何でもできるようになると言っていました。そこで、私は大学で経営工学の学位を取得し、第一次ドットコムブームのころ、MIT startup(マサチューセッツ工科大学がサポートする企業グループ)でエンジニアとして働きました。ですが、そこではいつも息苦しさを感じていました。当時この業界のどこを見ても男性しかいないことに嫌気もさしていました。しかし、母の言うとおり、そこでの経験は私のキャリアにとって非常に貴重なものでした。ものづくりに対する深い理解と論理的思考は、ファッション業界で大いに役立っています。

—なぜエンジニアリングの世界から、ファッションの道へ進んだのでしょうか。

ものづくりを学びたい、つくりたいという気持ちが強くなっていったんです。私はたまたまアパレルやファッションが大好きでした。だから思ったのです、私はものづくりが好き、プログラミングや電気回路をつくる代わりに、洋服をつくったらどうだろう、と。ある日、郵便局に行ったとき、列に並んでいる人と話を始めました。その人は、家族にファッションビジネスをやっている人がいて、会社の経営にどうしても助けが必要だという話をしていました。私は当時25歳と若かったこともあり、ファッション会社を経営できる能力をそなえていると思っていました(笑)。その方が私たちを引き合わせてくれて、私は彼女の元で働き、一からすべてを学びました。ファッションとビジネスの学校に同時に通うようなものでした。それが大きな転機となり、私はファッションの仕事に夢中になりました。

 

オードリーさんの元エンジニアというキャリアが、ものづくりのディテールにもいきている。シルエットの美しさはもちろん、着心地のよさやケアのしやすさも秀逸

 
—運命的な巡り合いだったんですね。そして、Frank & Eileenを立ち上げるきっかけも、ある偶然の出会いがもたらしたとか。

本当に偶然でしたね。あるメーカーに自分が求めているカシミヤについてのコンセプトを相談しに行ったときのことです。私は長い時間、部屋で待たされることになったのですが、そこでイタリアのベルガモにある家族経営の工場でつくられたイタリアの紳士服の生地が載っている古い本を見つけたのです。その本を見た瞬間、私のキャリアは大きく変わりました。私は今すぐにでもここを飛び出して、この美しい紳士用イタリア製生地を使って、女性用のボタンアップシャツにつくり直したいと思ったのです。そのメーカーの担当者がやってくるころには、カシミヤに対する興味はすっかりなくなっていました。その週に私はその本のオーナーであり、イタリア生地のゴッドファーザーとも言えるシルビオ・アルビニに電話をかけました。それが人生を変えることになるとは。話した瞬間から、アルビニと彼の工場は、Frank & Eileenに対する私のヴィジョンに賛同してくれました。アルビニを唯一のファブリックパートナーとすることは、決して疑問ではなく、私たちが深く信じている愛と忠誠の表現でした。この13年間、私はこの工場を訪れ、そのほとんどを資料室に閉じこもって過ごしています。1800年代以降に彼らが手がけたすべての生地がアーカイブされた、ほこりまみれの巨大な古い本を読みあさり、例えば私の祖父母であるフランクとアイリーンが結婚した年の生地を再現しようと考えたりするんです。

—後でお聞きしようと思っていたのですが、Frank & Eileenというブランド名はオードリーさんの祖父母の名前にちなんでいるそうですね。また、アイテム名に家族や愛犬の名前をつけています。とてもユニークな試みですね。

Frank & Eileenは愛の物語です。1947年にアイルランドのウィックロー州で結婚した私の祖父母にインスパイアされたものです。私は、世代を超えた壮大なロマンスと同じクオリティで、時代を超えた不滅のブランドをつくりたかったのです。私は自分のアイルランドのルーツと深く結びついており、家族の価値観は常に会社の基盤の一部となっています。織物のボタンアップシルエットには家族の名前が、織物のボトムにはアイルランドの愛する街の名前がそれぞれつけられています。

 

朝5時45分に目覚ましが鳴ってから夜寝るまで仕事がぎっしりと詰まっているというオードリーさん。「ですから、オフィスから離れている時間は、娘のグレイソンと乗馬レッスンやアイリッシュダンスで過ごすなど、心の整理に使っています」

—2009年、シルビオ・アルビニ氏との出会いを経て、Frank & Eileenを立ち上げます。当初のブランドのコンセプトは今も変わらないですか。

13年前、私は文字通りお金はゼロでアイデアだけでFrank & Eileenをスタートさせました。男性用だったイタリア製の美しいファブリックを使い、レディースのボタンアップシャツに生まれ変わらせたのです。私は一つの製品を作ることにとにかく熱心に集中し、Frank & Eileenはオリジナルの“Best Shirt. Ever.”(これまででもっとも素晴らしいシャツ)をつくったことで有名になりました。Frank & Eileenのすべては、過去も現在も未来もボタンアップシャツを再創造することにあります。私たちのアプローチは、常に三つのアイデアで定義されています。それは「女性のために再創造されたアイコン」、「すべてを超えたファブリック」、「旅のすべての瞬間を楽しむ」。このメンズシャツの工場で、その生地のクラシックさを目の当たりにして、すっかり魅せられてしまいました。「伝統的に男性用に作られてきたこの美しい生地を、とても女性らしく、体型を美しく見せるセクシーな女性用シャツにしたらどうだろう」と考えたのです。それこそが私が毎日でも着たいシャツなのです。

—Frank & Eileenはサステナブルな活動にも力を入れています。特に育児をするスタッフをサポートしたり、女性のリーダーの育成のために寄付をしていますが、女性をサポートする活動に力を入れている理由をお聞かせください。

Frank & Eileenは、「家族」と「サステナビリティ」という理念を、あらゆる場面で貫いています。私たちは13回目の誕生日を迎えました。私たちは2009年に一緒に会社を立ち上げたすべての人々と、今も変わらずにつながっています。そして一緒に13年目を祝っています。私たちは、ワードローブを、そしてビジネスを、誠実に構築することを信条としています。創立当初から、エシカルでサステナブルなメーカーと提携し、自然界に存在する最高級の原材料を使った製品をつくっています。また10年目を迎えたときに、私たちは次の10年にどのような企業でありたいか、そして、私たちが望む世界の変化を生み出すためにどのような貢献ができるかを自らに問いかけました。私たちは、100%女性のリーダーシップチームの構築に成功し、今後も世界にポジティブなインパクトを与える女性リーダーを支援し、育成していきたいと考えていました。未来の女性リーダーを育てるために、10年間で1,000万ドルを寄付することを約束しました。

 

Frank & Eileenのモットーは“perfectly imperfect”。一見、トラディショナルなデザインに、「完璧に不完全」という遊び心を加えている

 
—13年経って、今ではアメリカはもちろん日本にも多くのファンがいます。

とても光栄なことです。私は自分のノートに、女性として初めて会社を率いたとか、他の女性のために道を開いたとか、女性が何か英雄的なことをしているという見出しやストーリーを読んだら、それを書き留めるようにしています。私が尊敬し、ノートに書き留めた著名な女性たちが、Frank & Eileenを見出して、愛してくれるのは、本当にうれしいことです。女性が有機的に製品を購入し、身につけるということは、他に類を見ないことです。私たちの顧客は、世界中の好きなものを買うことができるのに、Frank & Eileenを選んで購入し、日常的に身に着けてくれています。自分が苦労した分、お客さまに喜んでいただけているような気がして、何か正しいことをやっているに違いない、と思えてきます。

—Frank & Eileenは、ロンハーマンが日本で初めてローンチした時からのお付き合いですね。

創業者のロンが東京に初めて私たちのシャツを持っていったところからが始まりです。ロンハーマンは、私たちの最初のリテールパートナーであり、グローバルな成功に不可欠な存在です。過去12年間、私たちが築いたパートナーシップと友情は、Frank & Eileenにとって大切なものです。2010年3月、ロンハーマン二子玉川店のグランドオープンで初めて日本を訪れたときから、日本のお客さまがFrank & Eileenを愛してくださっていることに感動しました。コレクションをデザインするたびに、長年にわたって日本で出会ったひとりひとりのファンの方々のことを心に留めて、その方々が何年も大切に思って着てくださるようなアイテムをデザインすることを心がけています。新たな10年に向けて、乾杯!

 

創立当初から、「家族」と「サステナビリティ」という理念を貫いているオードリーさん。2020年、女性が設立した世界的に認められたオムニチャンネル・ファッションブランドの中で、もっとも高いB Corp認証を獲得。「私たちにとって大きな誇りであり、業界をリードする方々の中で認められたことに、身の引き締まる思いです」

 

Profile
オードリー・マクローリン Audrey McLoghlin

カナダ・トロント生まれ。アメリカに移住後、ジョージア工科大学で経営工学の学位を取得。MIT startupでエンジニアとしてキャリアを積み、ファッション業界に転進。偶然、イタリアの紳士服の古い生地見本を目にして、メンズ用の生地で女性用の上質なシャツをつくるアイデアを思いつき、2009年、Frank & Eileenを立ち上げる。以後、洗練かつ機能性をそなえたシャツは、多くのセレブリティに注目され人気を博す

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