アートは見る人の心を揺り動かし、時に日々の生活に新しい光を差し込ませてくれます。「ファッションとは愛にあふれ、刺激的で楽しく、自由であるべきだ」とは創業者ロン・ハーマンの言葉ですが、この「ファッション」というワードは「アート」に置き換えることができるでしょう。ファッションとアートと形は違いますが、その先にあるのはみんなの「スマイル」そして「幸せ」ではないでしょうか。そのような思いから、ロンハーマンは、これまで同じフィロソフィーを共有する国内外のアーティストの皆さんとともに、アート展を開催してきました。今回、紹介するのは現在、千駄ヶ谷店で写真展を開催しているヒュー・ホランドさんです。
千駄ヶ谷店で6月14日(月)まで開催しているヒュー・ホランドさんの写真展「SILVER. SKATE. SEVENTIES.」
1975年の春、ローレル・キャニオンをクルマで走っていたら、ハリウッドヒルズの隠れた排水溝に行き当たった。 するとコンクリートのプラットフォームのように見える所から、子供たちが空中を飛んでいるのがチラリと見えたんだ。次の交差点でクルマを止めないわけにはいかなかったね。助手席に置いてあったカメラを手にして飛び出して行ったんだ。それがスケーターとの初めての遭遇だ。それから、スケーターを街のいたる所で目にするようになったんだ。まるで一夜にして、舗装された路面がある場所ならどんな所でも現れるようになった。 彼らは限りないエネルギーに満ちあふれていて、すごかったよ。多くはサーファーだったね。僕はクルマを持っていたから、スケーターたちをいろいろな場所に連れて行くことができた。それからの3年間、たくさんの場所を撮影して回ったよ。
——スケートボーダーの被写体としての魅力とは。
当時も今も、私が求めているのは、おもしろみや躍動感のある画像なんだ。つまり、視覚的なおもしろさだね。 スケートボーダーたちは、日々新しい壁を破ることに没頭し、今までなされたことのないことをスケートボードでやってきた。その姿は、まるで空で踊っているかのようだった。私は70年代のスケートシーンを「コンクリートの上のバレエ」だと言ってきた。私にとっておもしろかったのは、アクティブな時間だけでなく、静かな時間をも記録することだった。彼らが生きている世界、遊んでいる世界は、実に魅力的でフォトジェニックだったね。
貴重なゼラチンシルバープロセスの写真作品は購入も可能。すべてホランドさんのサインとシリアルナンバー入り
——2012年、初の写真集『Locals Only』を出版されました。タイトルの "Locals Only "にはどのような意味が込めているのですか。
最初は『Locals Only』という題名にしたくなかったんだ。否定的な意味合いを持つのではないかと思ったからね。サーフィンやスケートのスポットで、ビジターを入れないようにするためによく見られたサインだったから。でも、編集者が“ローカル“の世界に入ってみないか、という意味で、とてもポジティブな表現だと熱心に主張したんだ。最終的には自分も納得したけど、みんなこのタイトルをとても気に入ってくれたようでよかった。
「当時のスケーターは無邪気で自由だった。撮影に専念した3年間は自分の青春だった」とホランドさん
今回、ロンハーマンでも展示しているファインアートプリントは、すべてゼラチンシルバープロセスというスペシャルな現像とプリントをしているんだ。その美しさと言ったら!まるで、シルバーのような輝きを放っている。2017年にモノクロームの写真だけのショーを開催した時に、ショーのタイトルを『SILVER. SKATE. SEVENTIES.』としたんだ。写真集を制作するにあたり、これ以上のタイトルは考えられなかった。モノクロフィルムでの撮影はリラックスして自由に写真を撮れた。高価なカラーフィルムの時のように節約しようと考えなくても済んだからね。そんなゆるさが、今回の展示でも感じられると思うよ。
——1975年から1978年にかけてスケートボーダーを熱心に撮影していた時期を振り返ってみて、自分にとってどのような時間でしたか。
私は30代前半だったけど、その10年前の20代、1960年代にカリフォルニアに移住してきた。当時の多くの若者と同じように、「カリフォルニアでは何かおもしろいことが起こっている」という理由だけでね。大きな変化の中にあった時代であり、カリフォルニアは多くの文化的変化や出来事の中心にあるように思えたんだ。1975年までに、私は自分の好きなクリエイティブな仕事に落ち着くことができた。小さな家を持ち、そこには暗室があり、そこでモノクロのフィルムやプリントを現像していた。そして、スケートボーダーを撮影し始め、毎日自分のアートについてもっともっと学んでいった。そこには無邪気で偽りがなく、自由と発見の喜びだけがあった。それがすべてだ。 その自由と発見を終わることのないカリフォルニアの夏を背景に生きているすべての被写体とともに記録することに情熱を注いでいた。いわゆる、青春だったんだ。
——ですが、突然、スケートボードを撮るのをやめてしまいました。
ヘルメット、パッドの着用、保険といったプロスポーツの側面が優先されるようになってきてしまった。スケートボードの世界に、自分が撮りたかった無邪気さや自由を見つけるのが難しくなったんだ。徐々に撮影のペースが落ちていき、1978年にはスケートシーンを撮るのをピタリとやめた。当時はわからなかったけど、今振り返れば魔法のような魅力が自分の中で薄れてしまったんだろうね……。
——今回のロンハーマンの展示でもっとも気に入っている作品は。
それは難しい質問だ!どれも好きだから選ぶのは難しいね……。強いて言えば、展示会の入り口の看板に使われていた「Silver Skater」かな。この写真集の表紙に選んだのは、3年間の私の作品全体を象徴しているからだ。カリフォルニアの典型的なサーファータイプのスケーターが、駐車場で気軽に滑っていて、ある意味、全体を要約しているような気がする。でもやっぱり、全部の作品が大好きだな(笑)。私のフォトアートを気に入っていただけることを心から願っているよ。
——ホーランドさんにとって写真とは何ですか。
私にとって写真はとても大きな意味のあるものなんだ。50年間、レンズの前に現れたすべてのものを撮影してきた。 写真を撮っていないということがどんなことなのか、想像もできない。写真を撮るのをやめるなんて考えられない。これは私の芸術であり、人生。自分自身を表現する方法なのさ。
——どうも、ありがとうございました。