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CROSS TALK07 “pillings”  Ryota Murakami 【前編】

CROSS TALK07 “pillings” Ryota Murakami 【前編】

Ron Herman Journal

Issue 00Posted on Oct 16.2025

ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。第7回目のゲストは「pillings」(ピリングス)のデザイナー村上亮太(むらかみりょうた)さん。2023年12月から、株式会社リトルリーグに仲間入りをしたpillings。株式会社リトルリーグ執行役員でもあるロンハーマン ウィメンズディレクター根岸由香里が、クロストークの相手を務めます。

 

ものづくりの背景とつくり手の想いを、ニットに紡ぐ

 

 

2020年、自身のブランド「RYOTAMURAKAMI」(リョウタムラカミ)のブランド名を「pillings」(ピリングス)に改名し、新たな活動を開始したデザイナー村上亮太(むらかみりょうた)さん。ハンドニットにこだわり、ものづくりを通して、その背景にあるストーリーをも届ける。「pillingsは『毛玉たち』という意味です。毛玉ができるまで長く愛されるブランドを目指したい、という想いの他に、よくないものとして排除されてしまうものにも価値を付けたいという意味も込めています」と村上さん

 

根岸:村上さんとお会いしたのは、2021年、パリのとあるショールームにごあいさつにうかがったときのことですね。初めてpillingsのニットのコレクションを拝見して、その場で「買い付けられますか」とお声がけをしました。

村上:「ロンハーマンの人たちは、絶対興味ないだろうな」と思っていたのですが、気付けばピックアップしていただいていた。予想外で、びっくりしました(笑)。

根岸:とても独自性があって、村上さんでなくてはつくれないプロダクトの一つ一つの魅力が輝いていて。お話をしていて、手編みと聞いて、さらにグッと惹かれました。

村上:pillingsは、いわゆる服をつくるだけではなくて、ものづくりの背景やつくり手の想いまで、創造性をもって伝えていきたいと思っています。ハンドニットを軸にコレクションを展開することは、ブランドをスタートしてからずっと大切にしています。ただものをつくっていくだけではなくて、編み手さんたちとのコミュニケーションも大事にしつつ、pillingsの服を手に取ってくださった方にそれを感じ取ってもらえるように意識をしています。

 

ロンハーマン別注による2025秋冬シーズンのカーディガンとベスト。「このアイテムたちは、コレクションで展開しているpillingsのデザインの中でも、
よりシンプルでちょっと大人っぽく着られると思います。デザイン自体がすごく魅力的なので、形は変えずに色別注しました。
真っ白なロンTに重ね着してもらってデニムと、さらっと合わせると素敵ですね」と、ウィメンズディレクター根岸由香里

 

根岸:「手仕事だからこそ」という村上さんの信念が、服には絶対的に出ています。印象的だったのが、初めてpillingsのランウェイショーにうかがったときのことです。一般的にブランドのランウェイショーに招待されるのは自分たちのようなバイヤーやメディアの方、スタイリストさんなど、業界の方ばかりです。ですが、pillingsはそういう空気感ではなくて、自分たちの母親世代の皆さんがフロントローの一角に座っていらっしゃる。聞いたら、全員ハンドニッターさん。「自分が編んだニットが登場した」と、互いににこやかに話が弾んでいる。会場の空気がすごく温かくて人間味を感じました。

村上:「手編みをすごくモダンにして出したい」とか、そういう意図はありません。表現としてモダンである必要はありますが、「そのままの魅力をどう伝えるか」が大事だと思っています。純粋にいいものができ上がってきたらとてもうれしく思います。ただ、それだけではなく、ニッターさんと直接コミュニケーションを取りながら、よりよいものづくりをするということも大切にしています。一緒に話して考えながら、アドバイスも貰いながら進めていきます。自分たちが最初に描いたデザイン画通りに仕上げるよりも、それを変えながら一緒につくりあげるコミュニケーションが楽しいですね。


ファッションショーにひと際、こだわる村上さん。いつか海外へ、そしてパリコレから世界に発信したいという思いが、その根底にある。 
※写真は23FWランウェイより


根岸:デザイナーを目指したきっかけを聞かせていただけますか。

村上:母親が編み物を趣味でやっていて、僕の服もつくってくれていたんですよ。で、小学校3年生のときに引っ越しして、転校先でその服をすごくバカにされて。それまでは何も考えずに着ていたんですが、よくよく考えてみると変なんです。クマさんとかリボンが編みこまれたセーターとかで。同級生の間では三本ラインのスポーツジャージーが流行しているのに(笑)。それで不登校になった時期もありました。多分、それが最初にファッションというか服を意識した瞬間だと思います。

根岸:なるほど、多感な時期ですからね。

村上:中学生になってから、自分で服を選び始めたら服装を褒められるようになって、そうしたら「オシャレ、楽しいな」みたいな勘違いをし出して。地元にできたオシャレな古着屋に通うようになり、服のことをいろいろ教えてもらうようになりました。それで服が好きになって、デザイナーになろうと思ったのがきっかけですね。いろいろな学校を経て「coconogacco」(ここのがっこう)というファッションスクールに通いました。そこではずっと、「あなたにとってのオリジナリティは何ですか」「何で服をつくるんですか」と問われ続けるんです。たまたま「母親が昔つくった服があって……」と講師に見せたんです。すごくおもしろがられて、「それ、いいね。あなたのオリジナリティ、そこにあるんじゃない」と言われました。当時の服を改めて見ると、そこには欲のないものづくりとか愛情とか、そういうものだけしかない。格好つけようというのとはまた違う。そういうものに、もしかしたら自分は魅力を感じるのかな、と。そこからハンドニットの魅力を自分なりに伝えていきたい、と思うようになりました。

根岸:最初に立ち上げた「RYOTAMURAKAMI」(リョウタムラカミ)は、お母さまとの親子デュオブランドですよね。あまり、親子というのは聞いたことはありませんが。

村上:母親にデザイン画も描いてもらって、それを母親に編んでもらう。僕は何もしないというスタンスで横にいて頼むだけ(笑)。そういうスタイルが固まって、皆にもそうやってつくっていると知られたタイミングで、漫才で例えるのがいいのかわからないですけど、「型」ができてしまって崩せなくなってしまった。本質を突けなくなってしまったので、このまま続けても新しいものはできないと、自分一人でやり出しましたがすごく困りましたね。「自分は何がしたかったのか」というのが、わからなくなってしまっていたんです。

根岸:迷いのときだったんですね。

村上:ブランドが上手くいっていないとき、たいていの人はここでやめるんだと思いますが、自分はアホなので続けていたのが良かったかもしれないです(笑)。

根岸:すべてが積み重なって、今の村上さんにつながっている気がします。後編では、pillingsの今後の展望について聞かせてください。


村上さんがpillings創立5年間でもっとも想い入れがあるニットを囲んで。
「2023年の秋冬の一枚。その時は資金もなく本当につくるのに困っていて、
『このショーが最後になるかな』と思って、多分やめるんだろうな、と思っていました。
その悲壮感がプラスにも働いていたシーズンではありましたね。
過去の参考例がない新しいものづくりを自分たちで試行錯誤しました」

 

Profile
村上亮太 Ryota Murakami
1988年生まれ、兵庫県出身。2020年に前身ブランド「RYOTAMURAKAMI」から「pillings(ピリングス)」に改名し新たな活動を開始。全国のハンドニッターとともに、一点一点手編みで仕上げるニットを制作。手仕事の温もりとつくり手の思いを大切に、服を通じて背景にあるストーリーを届ける。



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