「visvim」(ビズビム)——世界中のクリエイター、アーティスト、インフルエンサーたちから注目を集めつづける、日本発信のファッションブランドの一つです。トレンドに左右されない、後世に残る普遍的な美しさの追求……。その魅力の源泉はクリエイティブディレクター中村ヒロキさんの「モノづくり」への深い思いでしょう。「伝統的な素材のすばらしさを、現代の服でも表現したい」。21世紀初めにスタートして以来、visvimが掲げているコンセプトですが、同様の言葉をうたうブランドは、今では少なくありません。ですが、visvimが他と異なるのは、その根底には中村さんが世界中を旅して得た、実体験から生まれるインスピレーションにあります。
Photography:Keisuke Fukamizu
「visvim」(ビズビム)のクリエイティブディレクター中村ヒロキさん(左)。国内外の伝統的な「モノづくり」を独自の審美眼でモダンなプロダクトと融合して、世界へ発信している
中村さんは、国内外を旅して出会ったコミュニティに息づく文化や技術を、無二のセンスで現代のファッションに昇華させるのです。そして、自分のクリエイションを“To bridge the process of creating products.” 「モノづくりを繋ぐ」と表現。今や国内はもとより海外でも、その地に脈々と伝わってきたモノづくりは、大量生産と生産効率化によって存続の危機を迎えています。手仕事によってのみ生まれる“美”の喪失に危惧を抱いている中村さん。「意味のあるプロダクトを通じてこれらの美しいものをつくる技法と、現代のマーケットの間の橋渡しをしたい」と語ります。
ブランド創立25周年の節目に手がけたのは鹿児島県奄美大島の「泥染め」。1300年もの歴史を持つ世界唯一無二の天然染色技術。絹織物の最高峰の一つ「大島紬」で知られる。
地元の職人との15年にわたる交流でコラボレーションが実現した
visvim設立25周年を記念して、モノづくりをひもとく展示、販売イベント「VISVIM HARMONIOUS PROCESS」をRon Herman名古屋、神戸、福岡の3店舗で10月4日(土)から13日(月)まで開催。鹿児島県・奄美大島で古くから受け継がれる天然染色の一つ「泥染め」にフォーカスしたアイテムが一堂に登場。
これまで中村さんは、さまざまな伝統的なモノづくりに着目。visvimのフィルターを通して、オリジナルのプロダクトを世界のファッションシーンに届けてきました。2023年は「天然染」、昨年は「真綿」(まわた)、そしてブランド創立25周年の今シーズン、フォーカスしたのは「泥染め」。鹿児島県・奄美大島で古来から受け継がれる染色です。島に自生する植物と泥を用いて染める世界に二つとない技法です。大島紬などの伝統工芸品でも広く知られ、その奥深く艶やかな染めは日本が誇る最高峰の染色技術の一つです。中村さんが泥染を手がけたのは、十数年前。新たなチャレンジに意欲を燃やす地元の職人の協力のもと、試行錯誤を重ねてきたのです。

「VISVIM HARMONIOUS PROCESS」では、中村さんが本展のために制作した冊子『Addendum to the Dissertation / Doro-Zome (Mud-Dyeing)』を贈呈。
中村さんのモノづくりへの思い、なぜ「泥染め」にフォーカスしたのかが語られている
さて、visvimの「泥染め」のコレクションに目をやりましょう。デニムジャケット、パンツ……。同じデザインのアイテムながら、それぞれが独自の表情を持っているのが不思議です。その秘密は手仕事ならではの「不均一」さ。「自分が惹かれるものは、以前より、均一なものより、不均一なもの。キャラクターがあるものに惹かれる傾向がありました。気がつくと、ファブリックデザインを行う上でも天然染色のつくり出す、優しく、不均一な表情に興味を持っていました」。濃淡のないフラットな仕上がりになる化学染色に比べ、天然染色は色ムラが出やすい。これまではマイナス面として切り捨てられてきた中に、中村さんは手仕事の「ぬくもり」や「個性」を大きな魅力として感じ取っているのです。「今回のコレクションはナチュラルな不均一さで美しく染まる泥染のテクニックでカジュアルな現代の日常着を制作しました。奄美大島の大自然の中で染められたやさしく深みのある色合いをお楽しみください」。皆さんとともに、visvimのアイテムを通して「モノづくりを繋ぐ」担い手になれればうれしい限りです。
「長い歴史の中で育まれてきた技術とそれを受け継ぐ職人の方々が、日本にはまだ残っている。ただ文化として保存するのではなく、現代のライフスタイルに合ったプロダクトとして、未来へ長く使い続けていけるものを生み出したい。職人の方々とともに、新たな技法に挑戦しながらものづくりを深めていきたいと思っています」