Journal

Ron Robinson(APOTHIA)

Ron Robinson(APOTHIA)

Ron Herman Journal

Issue 98Posted on Jul 25.2024

ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。今回のゲストはカリフォルニア発のフレグランスブランド「APOTHIA」(アポーシア)のオーナーRon  Robinson(ロン・ロビンソン)さん。ロンハーマンでは2009年の日本上陸から現在まで全国のストアで、パフュームやキャンドル、ディフューザーなどを展開。お客様から「ロンハーマンの香り」と呼ばれ長年愛され続けています。今シーズン、APOTHIAはロンハーマンだけのオリジナルフレグランスをリリース。そのクリエイションのために来日したロンさんにお話をうかがいました。

 

「APOTHIA」(アポーシア)のオーナーRon  Robinson(ロン・ロビンソン)さん。2005 年にフレグランス界のオスカー賞といわれる「Interior Scent of the year」を受賞と、世界中から注目されている

 

——ロンさん、お忙しいところありがとうございます。まずはカリフォルニアで活動することになったきっかけを教えてください。

 

私はテキサス州の小さな町で生まれました。19歳のとき、カリフォルニアにいる友人を訪ねたんです。自分のテキサスの部屋からは、岩や土しか見えなかったのに、とにかくカリフォルニアには素敵なビーチ、かわいいい女の子やクールな若者ばかり! ファッションも音楽もぜんぜんテキサスとは違う。ここに住みたい! 強烈にそう思ったんです。そこで両親にカリフォルニアに移住する、と宣言したんですが、取り合ってくれませんでした。でも、もう決めていました。大学もカリフォルニアに行くと。両親はうちにはそんな余裕がないというので、バイトして稼ぐ、と。もう、そうなったらとにかく行くしかありませんよね。

 

——で、実際にカリフォルニアで暮らしてみていかがでした。

 

私は自分がカリフォルニアで経験したことを愛してやみません。だってカリフォルニアにいるだけで、とてもたくさんのインスピレーションを得ることができたからです。だから私は自分のショップをロサンゼルスに開くことに決めたのです。私はカリフォルニアのこと、カリフォルニアに住む人々のことを良く知っていました。人々も私のことを良く知っています。だから、一つ一つがミューズ(女神)なのです。それは「カリフォルニア」というひとくくりの言葉ではなく、一つ一つのピースがミューズなのです。それはビーチであり、人々であり、山でもあり……。カリフォルニアには特別な魔法があるんです。そこへ行きたい、その中に巻き込まれ、一部になりたい、そこで何かをしたいと思わせる何かが。私がそうであったように。それは何かというと、きれいな女の子やビーチなんですけど、まあそれは冗談ですが(笑)。

 

前回のコラボレーション「BLOOM」に続き2回目となる今回のテーマは「WAIKIKI」。「ワイキキの貴婦人」と称される老舗ホテル「モアナサーフライダー」内にロンハーマンがニューストアをオープンしたことをイメージしたフレグランス。定番のディフューザーに加え、オードパルファム、 アロマティックパッドを展開

 
——どのようにして「APOTHIA」を立ち上げたのでしょうか。

1968年から、フレッドシーガルで10年勤めた後に独立して、その店舗の一部を借りて自分のショップをオープンしました。始めのころに手がけていたのは、メンズのカジュアルなジーンズファッションでした。その後数年でキッズ、コスメ、インテリア、香水、そしてレディスファッションと広げていきました。1999年から2000年にかけて、初めてのオリジナルの香水をプロデュースしました。そして、コスメのブランド名で使っていた「APOTHIA」と命名しました。この名前は二つの単語を組み合わせて作り出した造語なのです。一つは薬局という意味の「アポセカリー」(apothecary)、一つは理想郷という意味の「ユートピア」(utopia)です。Apothecary は大昔の化粧品のイメージです。そしてもちろんユートピアはすべてが素晴らしい理想郷。つまり、私のお店でしか見つからない商品を開発して販売しようと考えたのです。
 
——ロンさんにとってフレグランスの魅力とは。

とにかく私はフレグランスが好きです。身に付けているうちに、さらにフレグランスを理解できるようになりました。それは上手くいかないことが多いのですが、ときにすばらしい驚きになることもあります。それは私にとって工芸品になっていき、もっとつくりたい、もっと開発したい、と思うようになり、とてもわくわくするもので、アートになっていきました。専門の技術者に香りを調合してもらっていると、変化が起こります。それはときにすばらしい驚きになり、がっかりすることもあります。それこそが美しいアートなんだと思いました。商品をデザインしようとして紙の上にスケッチすることがありますが、そんなときに思い描いていたものとはまったく違うものが生まれもする。それもいいですよね。それが人生です。変化は自分がコントロールするものではないけれど、だからこそおもしろいものが生まれるのです。いいじゃないですか、思い通りにならなくても。変化があるからこそ楽しいのです。それこそが私がフレグランスに魅せられたことなのです。
 

「よいパフュームは段階を追って香りが変化します。今回のWAIKIKIは始めは柑橘系の香り、そして、新種の花のミックスされた香りに昇華していきます。本当に美しいですね」とロンさん

 

——「APOTHIA」のコンセプトは何でしょうか。

他にないユニークなものをつくりたかった。市場にたくさん出回っていてよく見かける有名なコスメとは一線を引きたかったんです。こんなエピソードがあります。パルファムを手がけるようになって、その原料のオイルが必要になりました。そこで私は世界でもっとも大きな香水の会社のニューヨークのオフィスを訪ねました。相手は全米一の会社の社長、香水を自在に操る人物といってもいい。彼らは私に興味津々で質問をしようとしました。「ちょっと待ってください。質問するのはこちらの方ですよ。なぜ私を受け入れてくれたのですか」と私はたずねました。「あなた方はありきたりでない何かユニークなことをしています。普通の大手の香水メーカーなら、それまで売れている香水のボトルの写真を持ってきて、これと同じものを売りたいのでつくってください、となるでしょう。それは創造性に欠けています。もちろんそれは仕事であり良い収入にはなるでしょうが、おもしろみに欠ける。でも、あなたが持ってきた香りは今までにはなく、そして他にはない香りです。私たちはあなたのことをもっと知りたいのです」と彼らは言いました。私たちはそこで良い関係を結ぶことができ、それが今日まで続いています。こんな小さな会社の香水だけれど、それを創造性があると認めてくれたあの言葉に私は強く励まされました。

——APOTHIAの開発には、ロンさんらしいユニークな手法を取り入れたそうですね。

1995年は、インターネットが普及し始めたばかりで、ウェブサイトを持つことがクールとされていましたが、ネットを活用するアイデアが浮かびました。全米の100人に「あなたの特徴となるフレグランスをつくるお手伝いをさせていただけますか」とメールを送りました。驚くことに全員が返信し、中にはセレブリティーも含まれていました。まず三つの香りのサンプルを参加者に送りました。彼女たちには、どの香りが一番好きか、香りをどうミックスしたか、どの香りが思い出に残るかなどをたずねました。質問には「あなたにとって一番の思い出の香りは何ですか?」といった内容も含まれていました。すると、海の香り、夕方の香り、早朝のパン屋さんの香り、大好きなパートナーの香りなど、さまざまな回答が集まりました。集めた情報を基に、一つの香りをつくり上げました。その後、また新しい三つのサンプルを送り、意見を収集する作業を繰り返しました。これを3回行い、最終的に8カ月かかって100人のうち80人が選んだ香りがAPOTHIAのベストセラー「IF」となりました。このような手法で香水を開発したのは、私以外にはいないでしょう。

 

香りだけでなく見た目も楽しめる、洗練されたパッケージ。ロンさん自らがデザインコンセプトを手がける

 

——ショップでのお客様からの直接の反応も大切にされたそうですね。

本当に素晴らしいプロダクトを扱っていることに自信がありましたが、お客様を見ているとそれが証明されるようでした。香水にもトレンドがあり、どの香りが売れているのか、なぜ売れるのかを注意深くテストしました。目指すのは、売れ筋の商品よりも優れた香水をつくることでした。お客様との対話を通じて、ファッションビジネスやストアビジネスについて多くを学びました。流行に敏感なお客様、彼女たちは自分がそうであるとは自覚していないことが多いですが、そこからの情報はとても役に立ちました。そこで、ターゲットを定め、どこに向かうべきかを理解することができました。

——今シーズンのロンハーマンとの新しいコラボレーションについて教えていただけますか。

今回の新しい香り「WAIKIKI」はロンハーマンの成長への祝福をイメージしています。ロンハーマンというブランドはもちろんカリフォルニアが発祥ですが、ハワイにできた新しいショップと東京という世界の本当に素晴らしい三つの場所を一つにしたイメージでもあります。それぞれの都市がユニークな場所ですよね。しかし、この三つをそれぞれの良さを残してどのようにブレンドすればよいのか、どんな芸術品をつくればよいのか。そこで、私たちの最もよく売れているフレグランスIFとロンハーマンの最もよく売れているフレグランス、そして今までの歴史、そして私の人生でのビジョン、過去の学ぶべき良い部分も忘れずに未来の予想図を描き、それらを取り込む。それが私たちがピュアでスペシャルなものを素晴らしく新しいものに進化させる方法なのです。ここにあるフレグランスにはIFの歴史を受け継いで入るものの、ほんの少しのハワイそして日本の植物の特別な香りの要素も盛り込まれています。とにかく本当に美しい香りです。

 

「私にとってフレグランスはアート。思い通りにできたりできなかったりだけど、完成した際のうれしさときたら。人生そのもの」

 

——最後にロンハーマンのお客様へメッセージをお願いできますか。

お客様がロンハーマンのストアに入っていらしたとき、その瞬間に時を忘れる。そういうことを考えるのって楽しいことだと思いませんか。フレグランスはそれを叶えてくれるのです。その香りをかいだ途端に、仕事も子育も、政治のことも一瞬全部忘れて、ただその良い香りに包まれていることだけを感じる。包まれている瞬間の喜び、愛、美だけを感じる。それが香りのおもしろいところです。だからこそ、この仕事を愛しているし、やりがいを感じるのです。ロンハーマン、そしてAPOTHIAのお客様になっていただき、本当にありがとうございます。

——ロンさん、どうもありがとうございました。

 

「今回のインタビューで皆さんからご質問いただいたことで、私の心は過去にタイムスリップしました」と、昔日を懐かしむロンさん。だが、フレグランスへの愛は今後も深まっていく

 

 

 

 

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