ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。第5回目のゲストは「SZ BLOCKPRINTS」のデザイナーSarah Zellweger(サラ・ゼルウェガー)さん。イギリスから訪れたサラさんとともに、ウィメンズディレクター根岸由香里が、京都を巡ります。古都で過ごした一日、そして、服づくりへの思いを二人で語ります。
伝統と技術。ブロックプリントの伝統を千年先へも
根岸:今日は骨董屋や更紗(さらさ)の工房にうかがったりと、特別な一日になりましたね。
サラ:はい。京都を訪れたのは2回目なの。6年前は観光目的で、ずっと北の田舎の地域に行って雪に覆われた山道を登って行き、美しい景色と観光を楽しんだわ。今回は前回とは全く違った体験をしているので、なんだか初めて京都に来たような感じ。京都は街全部が歴史に覆われていて、穏やかで、すべてがキラキラと輝く貴重な宝物みたい。
ウィメンズディレクター根岸由香里と「SZ BLOCKPRINTS」のデザイナー、サラ・ゼルウェガーさんが足を運んだのは、根岸の京都でのお気に入りの骨董屋。店内には江戸時代から明治時代の伊万里焼がずらりと並ぶ
根岸:昨日は一人で東京を回っていましたけど、とても対照的な体験をしたのでは。
サラ:東京は、パワーにあふれて、さまざまな感情やエネルギーが渦巻いている感じ。京都とはまったく違う感覚。東京で特に興味深かったのが、渋谷駅前の交差点のような多くの人が行きかい雑多なイメージを感じる場所のすぐ裏手に、とても穏やかで歴史も感じる空間を見つけることができるところ。新旧が入り交じっているところがとても魅力的だと思う。私は京都と東京の両方を見て、いろいろなことを感じることができて感謝しているわ。
根岸:ロンハーマンの千駄ヶ谷店にも遊びに来てくれましたね。
サラ:まるで天国にいるような気分だったわ。ストアの空間がとても落ち着いていて、優雅で静か。空間は広く、温かい雰囲気で魅力的。心地よさと楽しさであふれている。お客様がリラックスしてショッピングを楽しむ姿を見て、とても素晴らしいことだと思いました。これは千駄ヶ谷店だけでなく、すべてのストアで共通しているんでしょうね。
店内のコレクションに目を輝かせていた器が好きなサラさん。いろいろな器のモチーフを興味深げに眺めていたのは、デザイナーならでは。根岸もお気に入りをチョイス
根岸:それはうれしい言葉です。今回の京都の旅、まず訪れたのは膨大な伊万里焼のコレクションを誇る骨董屋でした。
サラ:本当に信じられないくらい美しく、日本の真の歴史と伝統に触れた感覚がしたわ。陶器のデザインに使われているモチーフに魅了された。日本のモチーフは幸せの感情を表しているものが多いと聞いたことがあるけど、インドのモチーフはもっと自然に基づいているものが多いの。花や木や葉……。でも、どちらも表現したいものは似かよっていて、パワーやプラス思考や生命の誕生など、生きていくことへの後押しではないかしら。
根岸:きっと気に入ってもらえると思っていました。たくさん買っていましたね。そのチョイスがサラらしいなと。そして、更紗(さらさ)の工房で染色の体験を……。
サラ:とにかく驚いたわ!
サラさんが訪れた「前仁」は、京都でも屈指の更紗(さらさ)の工房
根岸:更紗の発祥地は約三千年前のインド。インドに工房がある「SZ BLOCKPRINTS」とルーツは同じなので、きっとサラは喜んでくれると思っていました。今回、特別に見学をさせてもらった「前仁」さんには、私も初めて訪れたので、いい経験になりました。
サラ:どの国にもそれぞれ身に付けるものに使われる伝統的な独特のプリント(柄)があるわ。それは昔から各々の世代に受け継がれてきていると信じている。なぜならそれは人間には本来そなわっている「着飾りたい」という願望があるから。こちらで染めているぼかしとステンシル(型紙技法)を合わせた柄をつくり出すために必要な技術と忍耐を目にして、それがどれほど重要かということがわかった。そして、ひらめきも与えられたの。工房のたくさんの染料の匂いや空気、そして製作の工程を見て、ジャイプールの工房(インドにある「SZ BLOCKPRINTS」のスタジオ)を思い起こして、とても感傷的になったわ。由香里、本当にありがとう!
「前田仁仙」は伝統的な「型摺り染め」による「仁仙更紗」(じんせんさらさ)で知られる。複雑な色柄が魅力で1反で使用する型紙の数は多いものでは300枚以上。更紗のルーツがインドだと聞いたサラさんは、「SZ BLOCKPRINTS」との縁に感慨深げだった
根岸:サラが職人の方々に熱心に質問をしているのが印象的でした。職人さんもうれしそうでしたね。伝統的なものづくりを継承している者同士の間で、通じるものがあるのでしょう。
サラ:とにかくインスパイアさせられたわ。私の信念に近いものがあるの。それは手描き、手染めをサポートしていくこと。これからの千年先へ伝えていきたいと思っている。もっとたくさんの日本の伝統工芸の技術について学んでみたいわ。日本の織物・布地の歴史はとても興味深い。絞り(タイダイイング)、藍染……。いつかコラボレーションできたらと考えているの。
根岸:後編では「SZ BLOCKPRINTS」について、もっと話を聞かせてください。
「前田仁仙」4代目の前田剛志さん(右)のご厚意で、サラさんは染めの体験を。思いがけないサプライズに大喜び
Profile
サラ・ゼルウェガー Sarah Zellweger
2016年、インドの伝統的なブロックプリントとモダンファッションとを融合させたレディスウェア「SZ BLOCKPRINTS」をスタートさせる。ブロックプリントのレジェンド、キティ・レイさんが創始したインド・ジャイプールの工房で、地元の職人たちとの協業にこだわってものづくりをする。
過去のインタビューはこちら。
The Innerview 04:Sarah Zellweger (SZ BLOCKPRINTS)
取材協力:株式会社前仁