過去を今に。今を未来に。忘れ去られたものに、新たな命を吹き込み、現在によみがえらせる。まるで魔法のような素敵な服づくりをしている二つの新たなブランドが、今シーズン日本に初上陸、ロンハーマンの春夏を彩る仲間に加わりました。「Hera Vintage」(ヘーラー ヴィンテージ)と「mémori」(メモリ)です。古着や廃棄された素材を再利用して服をつくるリメイクやアップサイクルは、サステナブルファッションが注目される近年、多くのブランドが取り組んでいます。「Hera Vintage」と「mémori」はサステナブルを意識しながらも、過去につくり手が服に込めた思いに敬意を払いながら、愛情とクリエイティビティを注ぎ込み、新たな服に生まれ変わらせています。次の世代も大切にしてくれるような心が動く服を。その服づくりは新たな命を与えて転生させるREBIRTH(リバース)という言葉がふさわしいでしょう。
「Hera Vintage」(ヘーラー ヴィンテージ)のジャケット。ヴィンテージのキャラココットンに施された華やかな刺繍が目を引く
ヴィンテージのテキスタイルはまとめて仕入れるので、箱を開けてみるまでどのような布が入っているかわからない。「キルトが届いたら数日間向き合います。その癖や特徴を知りたくて。そして、それについて理解して初めて服づくりに取り組みます」
「Hera Vintage」は2021年、イギリス、ダービーシャー州のウィアリー・ブリッジでルイーズ・チッパーフィールドさんが立ち上げました。花々などの自然や女性をモチーフにした彩り豊かで可憐な刺繍が施されたジャケット。また、さまざまな繊細なデザインのキルトをコラージュしたスカーフ。その美しさに思わず目を奪われます。驚くことに、これらの素材はすべてヴィンテージ。古いものは3世代前、1900年代前半までさかのぼります。ルイーズさんは20年間、ハイブランドのバイヤーやデザイナーとして活躍してきました。しかし、流行のサイクルが目まぐるしいファッション業界の動向に疑問を抱き、サステナブルでスローファッションな服づくりを手がけたいと思い立ったのです。
テキスタイルは捨てるところがないというのがルイーズさんの信条。ヴィンテージキルトの端材を組み合わせてスカーフに
イギリス、ダービーシャー州のウィアリー・ブリッジという自然豊かな村にスタジオを構える。同じ価値観を持つ少人数のチームで服づくりが行われている
その服づくりの根底にあるのが、テキスタイルへの愛情です。ルイーズさんは次のように語ります。「子どものころからずっとヴィンテージの服やテキスタイルに惹かれていました。私にとってテキスタイルは、エネルギーや記憶を内在していて、物語を宿しているものなのです。例えば1930年代、小麦粉はプリントの付いたコットンの袋に入れて配達されていましたが、宣伝のために業者は競って美しいプリントを袋に施しました。当時の女性たちはそれを利用して、服に仕立てたのです。不必要なものを美しいものにつくり上げる術を、当時の人々は持っていました。『Hera Vintage』では、この伝統をこれからも受け継いでいきたいのです」
背中には世相を反映したピースマークのメッセージが。「Hera Vintage」はどれも手仕事による一点もののため数量限定となる
テキスタイルの話になると止まらないルイーズさん。今までで一番のお気に入りをたずねると顔をほころばせて目を輝かせます。「この話をすると感情をおさえきれなくなるんですよ。昨年、今までで一番美しいキルトが私のもとにやってきました。私はそれを『ジョーンとジョージのキルト』と呼んでいます。これはまさに真実の愛の証です。そのキルトは美しいシエナオレンジ色で、ジョーンとジョージの結婚生活の間の旅の記憶が刺繍されています。1956年、ジョーンとジョージは結婚して、オランダ、日本、ロシアを一緒に旅しました。その旅の思い出が、桜の花、チューリップ畑、サーカスの様子など手の込んだ刺繍で不滅のものとなっているんです。本当にうっとりするようなキルト。私にとってこれはテキスタイルという作品であるだけではなく、思い入れや記憶のこもったお金には代えられない貴重なものなのです」
今シーズン、京都店にお目見えする南フランス、マルセイユ発の「mémori」(メモリ)。クリエイティブ・デュオ、アリシアさんとギヨームさんが、天然の素材と染料、アンティーク素材のみを使用して、プロヴァンスやマルセイユの伝統的なスタイルに根ざして服づくりを行う
「mémori」は南フランス、マルセイユでクリエイティブ・デュオ、アリシアさんとギヨームさんによって誕生しました。地元出身の二人はプロヴァンス地方から飛び出して世界を旅して、外国でも暮らしたことも。中でもメキシコで過ごした日々は、伝統的な文化である民芸や工芸品の色彩や手仕事が今に息づいていることに、大きな衝撃と影響を受けるきっかけになりました。そして、二人は生まれ育ったマルセイユで、2020年にブランドを立ち上げることに。
ダンガリーズはボタンを外してタンクトップとパンツのセパレートに。ドレスは袖を外してノースリーブに。季節やシーンに合わせて二通りの着こなしを楽しめるのがプロヴァンスらしい
ジャガード織のビンテージカーテンから作られたセットアップ。「フロントポケットなど、伝統的なプロヴァンスの実用的なディテールを持つ多くの美しい衣服にインスパイアされています」とアリシアさん。
どちらも服づくりの知識はありませんでした。よりどころにしたのは、マルセイユに脈々と受け継がれてきた伝統です。地中海の要所であったマルセイユは、古くから海洋貿易で栄えてインドなどオリエンタルの文化が流入してきました。それを独自に昇華させて、王宮文化が栄えたパリとは異なる独自のスタイルを生み出してきたのです。「マルセイユは、フランス人というよりはむしろマルセイエ(マルセイユ人)を感じさせる雰囲気でなんとも特別なものがあります。また素晴らしい文化的多様性がある街で、多くのクリエイターがマルセイユに移り住んでくるようになりました」と二人は語ります。
世界を旅して、その土地に伝わる民芸や文化から受けたインスピレーションがクリエイティブの原動力に。「陶器、テキスタイル、ファッションデザインを通して、失われつつある手仕事をよみがえらせたい」とアリシアとギヨーム
ブランドタグには使用されたファブリック、つくられた年代、ボタンの種類、裁縫をした職人や工房の名前などがアーカイブされている
「mémori」の服はすべて、天然の素材と染料、またはアンティークの布地のみを使用し、テーラーメイドで作られた1点もの。古いファブリックは17世紀にさかのぼるものも。「プロヴァンス地方の典型的なテキスタイルを復活させることを目指しています。デザインもプロヴァンスの伝統的な衣服からインスピレーションを得たもので、実用的なディテールには多くの美しさがあります。当時の布は蚤の市で探したり、コレクターから集めたりしますが、程度がいいものはなかなか手に入りません。1着分の布が見つかればラッキーですね」とアリシアさん。また、二人が着目するのは素材だけではありません。世代を超えて地中海の土地に根付くサヴォアフェール(熟練された職人の仕事)を讃え、プロヴァンスの典型的なテキスタイル、ディテールや縫製など匠の技を復活させることにも積極的に取り組んでいます。
「『mémori』は、プロヴァンス語で記憶という意味です。私たちは、絶滅しそうな職人の技術、つまり昔から人々の暮らしに息づいてきた記憶をよみがえらせたいと考えているんです」
両ブランドとも2月25日(土)から発売。memoriはロンハーマン京都店でポップアップ、Hera Vintageはロンハーマン各店で限定販売される。どれも手仕事による1点もので生産数に限りがある貴重なコレクションとなっている
ローンチを前に「Hera Vintage」と「mémori」のデザイナーたちからメッセージが届きました。
「服を選ぶ時、目を使うのではなくて心を使うこと。それを着たらどんなふうに感じるか、想像してください。もしその服が自分の気持ちをワクワクさせてくれたら、それが一番のサステナブルな選択になります。あなたがその服を大切にすれば、子どもたちが受け継いでいく。明日の家宝になっていきます」(ルイーズ・チッパーフィールドさん)
「私たちは、それぞれの地域の独自性は、その土地に根ざした伝統や工芸技術に反映され、記憶や時間と結びついていると考えています。私たちは日本の文化にすっかり魅了されて、すべてが芸術に感じます。日本を訪れて、その文化に触れることが私たちの夢でなんです」(アリシアさんとギヨームさん)
この春、ロンハーマンで、時を超えてよみがえった新たな命と出会ってみませんか。