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-Meets Your Artist- Niki Lederer

-Meets Your Artist- Niki Lederer

Ron Herman Journal

Issue 54Posted on Oct 24.2022

色彩も豊かでユニークなシルエットのアート作品の数々。その美しさに思わず引き込まれてしまいそうになりますが、これらがすべて不要になった廃棄物から生まれたと聞いたら、驚かずにはいられないでしょう。手がけたのは世界的なアーティストのニキ・リーダーさん。ロンハーマンでは、ニキさんとオーストラリア発のハンドメイドバッグブランド「STATE OF ESCAPE」(ステート オブ エスケープ)によるコラボレーションコレクションをリリース。また、併せて、本人によるワークショップをロンハーマンで開催します。来日する前に、ニューヨークのニキさんに話を聞くことに。作品を通して、どのようなメッセージを世界へ発信しているのでしょうか。また、気になるワークショップの内容は。

 


ニキ・リーダーさんが手がけた最新の作品。「STATE OF ESCAPE」(ステート オブ エスケープ)のネオプレンの端材を使って、ハンギングアートに。10月29日(土)からロンハーマン千駄ヶ谷店で展示販売される


——現在、ニューヨークを拠点としているそうですが、どのような活動を行っているのでしょうか。


平日は、ブルックリンとマンハッタンにいますね。毎日の通勤では、作品に使えそうなマテリアルがないか目を光らせています。カラフルなプラスティックボトル、つぶれたアルミ缶、壊れて捨てられた傘……。路上やサイドウォークで見つけたさまざまな廃棄物を集められるよう、バックパックにはいつも予備のバッグを忍ばせています。週末には、ニューヨークの北にあるニューバーグのスタジオに行き、ワークショップを開催したり創作活動に専念しています。


——廃棄物をアート作品にするというコンセプチュアルな創作活動を始めたきっかけは。


2007年ごろ、ブルックリンのホットヨガスタジオでヨガのインストラクターをしていた時に、プラスティックボトルを集め始めました。ヨガの生徒は水をたくさん飲むので、毎週リサイクルで回収するようになったんです。当時はプラスティックボトルは透明だったので、ステンドグラスの窓やシャンデリアから発想を得て、作品を制作し始めました。2010年になると、不透明でカラフルなプラスティックボトルを集めるようになりました。それが現在の私の作風へと発展しています。

 


10/29(土)、10/30(日)にロンハーマン千駄ヶ谷店にてニキさんによるワークショップ“Faux Flora and Fauna: Inspired by Nature, Made in Plastic.”が開催される。ニキさんとともに廃棄されたプラスティックボトルをアート作品にアップサイクルして店内に展示。詳細は千駄ヶ谷店まで問い合わせを


——作品を通して、オーディエンスにどのようなメッセージを与えたいのでしょうか。


廃棄物から拾い出したマテリアルを使うことで、モノを消費した後にどれだけたくさんのゴミが排出されているかということに注意を促すことができたらと願っています。この作品は、価値のないもの、使い捨てのもの、もはや役に立たないものと考えられているものから生まれています。立体作品の密度が、使い捨て文化の過剰さと世の中の廃棄物の圧倒的な量を強調しているんです。


——作品の材料となる廃棄物を拾っていて、おもしろいエピソードがあったら教えてください。また、これまで拾った中でも、もっとも驚いたものは。


笑い話ですが、帰宅途中の地下鉄の駅でのことです。プラスティックボトルを集めた大きなショッピングバッグを抱えて歩いていたら、通行人が私のことをホームレスでシェルターから出てきたばかりだと勘違いして、地下鉄の料金を払ってくれようとしました。あと、ゴミの中で一番驚いたのは、新品同様のフランス製の高価なハンドバッグ! 友人にプレゼントしました(笑)。

 


芸術家ファミリーの一員として育ったニキ・リーダーさん。アーティストへの道を進んだのは自然の成り行きだったと語る。ニューヨーク市内の高校で美術史を教える講師という顔も持つ


——ご存知の通り、ファッション業界は環境負荷が大きい産業です。ロンハーマンもストアで使用する電気に太陽光発電を利用したり環境負荷をかけないブランドと取り組むなどサステナブルを重視していますが、ニキさんはファッション業界の現状、未来をどのように考えているのでしょうか。


私は昔からファッションや洋服が好きでした。ですが、ファッション業界は、毎シーズン、洋服やアクセサリーの新しいサイクルを生み出しています。つまり、この地球上では、毎シーズン、ファッション製品が新しく追加されているのです。ファッションの未来は、他の産業と同様に、よりサステナブルで環境への影響を少なくするための多くのチャンスがあると思っています。ヴィンテージや古着はますます主流になりつつあり、そして、小さなブティックからオンラインの大手古着業者へと規模がシフトしているのも、正しい未来への一歩といえるでしょう。ファッションシーズンを終えた服が、完全に生分解(微生物の働きにより自然に還ること)される日がくるかもしれませんね。


——ニキさん自身について教えてください。どのような幼少期を過ごしたのでしょうか。影響を受けた人物や出来事はありますか。


幼いころは、レゴで遊ぶことに夢中でした。それが高じて、裏庭に木の砦を作るようにまでなりました。その後、オブジェをつくり続け、高校時代にはミシンで裁縫を始めました。私の作品制作に最も大きな影響を与えたのは、カナダ西海岸で受講したスカルプチュア(彫刻)のプログラムで、そこのスタジオでは拾ったものを再利用することが常套手段となっていたのです。

 


素材はバイオベースのオイスターシェルブレンドラバーとリサイクルポリエステルを使用。「Escape」、「Petite Escape」、「Satellite Folio」の3つのスタイルでコラボレーション。10月29日(土)からロンハーマン千駄ヶ谷店とオンラインストア、STATE OF ESCAPEの公式サイトにてエクスクルーシブで発売される


——今回の「STATE OF ESCAPE」とのコラボレーションでは、2017年に展示した“Runner”(ランナー)がデザインのソースとなっています。「ランナー」はどのようなコンセプトなのしょうか。


「ランナー」は、立体のプラスティックボトルから切り出した長方形のプラスティック片で構成されたとても長いアート作品です。ボトルのデザインに内在するテクスチャーやパターンを強調するためにボトルの平面部を選んでいます。タイトルの「ランナー」には幾つかの意味があり、ダイニングテーブルの中央にある長いテキスタイルや、階段を保護するカーペット、そしてもちろん走るということも含まれています。私たちは“プラスティック”から逃げることはできないのです。


——この度、来日されてロンハーマンでワークショップを行いますが、どのような内容になるのでしょうか。また、お客様へのメッセージもいただけますか。


プラスティックは、カットしたり形をつくるのが簡単な素材です。アートの素材としてプラスティックへの愛情を、ワークショップに参加してくれる皆さんとシェアできることをとてもうれしく思っています。ワークショップでは、自然からインスピレーションを受けたオーガニックなシルエットを制作します。ワークショップへ参加する皆さんが、どんなデザインを手がけて、どのように展示ができるのか楽しみです。日本のお客様にお会いして、ファッションスタイルや美学からインスピレーションをもらえることを楽しみにしています。

 


今回のコラボレーションは「ネオクロマコレクション」と呼ばれ、ネオは「新しい」、クロマは「色の鮮やかさの度合い」と色彩理論が由来。ニキさんの2017年のアートワーク”Runner”(ランナー)を2次元化してプリントに


——最後の質問です。ニキさんにとって“アート”とは。


アートは強力なコミュニケーションツールです。鑑賞する人たちは、作品の内容を直感的に理解することができます。私の作品を通して、オーディエンスとさまざまな感情やアイデアを共有し、表現できることを光栄に思っています。


——ニキさん、ありがとうございました。


Profile
ニキ・リーダー Niki Lederer

カナダ、オンタリオ生まれ。ニューヨークでアーティストとして活躍。作品に廃棄物を使用することで、現代の過剰な消費社会へ警笛を鳴らす。ブロンクスミュージアム、ワゼックプロジェクトなどに作品が所蔵されている他、個展やグループ展を積極的に行っている

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