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ABODE OF SNOW

ABODE OF SNOW

Ron Herman Journal

Issue 31Posted on Sep 30.2021

天空に届くような山嶺が連なり、雪肌と青空のコントラストがまぶしく輝く……。世界最高峰の山、エベレストで知られるヒマラヤ。古代文明の源となった大河の水源でもあり、今なおチベットを始め多彩な民族が自然の恵みを享受し、独自の文化を育んでいます。



「ABODE OF SNOW」(アボード・オブ・スノー)のダウンジャケット「ミラ」には、チベットの伝統衣装「チュバ」のディテールが生かされている。ダウンフーディ「ルンタ」はほどよいボリューム感なので、真冬はもちろん春先や秋にもカジュアルに羽織れるのが魅力。ともにジェンダーレスなデザイン


「ヒマラヤ」の名前の由来は、古代サンスクリット語の「雪の棲家」。昨シーズン、その英語名を冠したアウターウエア、ライフスタイル・ブランド「ABODE OF SNOW」(アボード・オブ・スノー)が誕生しました。手がけるのはカリフォルニアをベースに活動するTenzin Wild(テンジン・ワイルド)さんとTAO(タオ)さんです。


ファウンダーのTenzinさんはスイス出身。ですが、そのルーツはチベットにさかのぼります。母親はチベットで生まれ育ったのですが、中国の侵攻・併合により難民となりスイスに移住したのです。Tenzinさんは、2008年からニューヨークで自らが始めたファッションカルチャー誌の編集長として活躍していましたが、それ以前の2005年にその後の人生に大きな影響を与える出来事を経験します。チベットへの旅です。



Tenzinさん(右)とTAOさん。Tenzinさんの母親はチベット出身、ルーツへの思いが「ABODE OF SNOW」に込められている。TAOさんは映画俳優として活躍するかたわら、サステナビリティ・アンバサダーとして環境に配慮した服づくりを追求。現在、二人はカリフォルニアでヴィーガンライフを送っている


「自分の祖国をこの目で見てみたかったんです。チベットは美しくてマジカルでした」とTenzinさん。富士山の標高ほどの高原で、町から町への移動もクルマで8時間ほどかかる厳しい環境で暮らすチベットの人々。しかし自然とともに生きる、その姿に感動を覚えたと言います。母親から習ったチベット語を思い出し、現地の人たちとコミュニケーションをしているうちに、彼らの平和的で信仰心あふれる思いに共鳴して、自分の中のルーツを再発見したのです。祖国への思いを強くしたTenzinさんですが、チベットの至る所に残る侵攻の影に胸を痛めました。



2005年、Tenzinさんは初めてチベットの大地を踏んだ。チベット自治区首府のラサを拠点に寺院を巡る旅。人々と触れ合うほどに自分のアイデンティが呼び覚まされていった


「半分チベットの血を引く身として、どういう風に社会に語りかけられるだろうか」。ダイレクトな政治的メッセージではなく、これまでのファッションカルチャーというバックグラウンドを生かして、「こんなに美しい文化がある」ということを世界に伝えられれば……。それが「ABODE OF SNOW」の出発点でした。



生産は岡山県児島市にある家族経営のアトリエと協力。クラフトマンシップによって、耐久性が高い服づくりを実現している。売り上げの一部を寄付して、ヒマラヤ白内障プロジェクトをサポート


まず、手がけたのはダウンウエア。標高が高く雪に囲まれた過酷な気候の中で暮らすチベットの人々にとって、アウターウエアは必需品。民族衣装には、世界一の山脈の麓で暮らす人たちの知恵や文化が息づいています。そのストーリーを自分たちで現代的に解釈、クリエイションして、もっと身近に感じてもらいたいと考えたのです。「チュバ」と呼ばれる前身が重なるローブのような民族衣装のディテールと機能を落とし込み、カラーもチベット仏教の象徴でもある五色の旗「ルンタ」の色彩で展開しました。



ダウンフーディはゆったりとしたデザイン。厚手のニットやワンピース、スカートとの相性もいい。グリーンの他にイエローも展開。鮮やかな色彩はチベットの象徴的な五色の旗「ルンタ」からインスピレーション


古来より自然を敬い共生してサステナブルな暮らしをしてきたチベットの人々。彼らの生き方や考えを反映するかのように「ABODE OF SNOW」の服づくりも、地球環境に配慮されています。パートナーのTAOさんは、環境問題や動物の権利「アニマルライツ」を発信する活動家、そしてTenzinさんともに動物への搾取をしない生き方をするヴィーガンです。サステナビリティ・アンバサダーとして、素材選びにもこだわりました。リサイクル素材とオーガニックコットン、リサイクルダウン、そして、自然に抜け落ちたヤクのウールを使用しています。「とにかく『長持ちする』という服づくりをしていくことを軸に置きながら、リサイクル素材については、日々『もっともっとよりよいものがないかな』と探りつつ、今のテクノロジーではベストなものを選んでいます」。



使用するダウンはすべてリサイクルダウン。また、他の動物性素材は、ヒマラヤ固有種の牛「ヤク」の換毛期に抜け落ちるウールを使用。「ヤクはヒマラヤに住む人たちの生活に本当に必要なもの。あの高度で生息できる、自然からの贈り物です」とTAOさん


将来、Tenzinさんは、「ABODE OF SNOW」は、ファッションブランドだけではなくチベットやヒマラヤの文化を伝えるプラットフォームとして、ヒマラヤの暮らしや服づくりを通しての出会いを映像でドキュメントしてジャーナル的に伝えていければとも考えています。「ABODE OF SNOW」のダウンを手にした人が、ヒマラヤの自然の美しさ、そこで暮らす人々の文化、平和への思いを感じてもらえたら、と二人は願っています。

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