Journal

CROSS TALK03 CFCL 高橋悠介さん

CROSS TALK03 CFCL 高橋悠介さん

Ron Herman Journal

Issue 25Posted on Jul 21.2021

ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。第3回目のゲストは今シーズン、ロンハーマンがコラボレーションをお願いした「CFCL」の代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介さん。ホストはロンハーマン ウィメンズバイヤー 福田円(まどか)です。


「現代生活のための衣服」とは


福田:今日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、まずブランドのコンセプトを教えていただけますか。

高橋:「CFCL」は「Clothing For Contemporary Life」の頭文字になります。日本語だと「現代生活のための衣服」ですね。現代生活は日々刻々と変化しているので、それに対して常にアップデートして向き合っていくことを目指しています。自分たちが現時点で掲げている「現代生活のための衣服」の定義は三つ。一つが「Sophistication=洗練されていること」。一着の服で日常の様々な場面に対応できる上品さを兼ね備えている。家で過ごしていても快適だし、レストランやパーティに行く時でもサンダルからヒールに履き替えてジュエリーを着ければスタイルが完成するようなイメージですね。二つ目は「Consciousness=現状の認識とそれに対するアクション」。環境に配慮されている素材を選択し、流通の透明性や生産者とちゃんと向き合って仕事をしているか。三つ目が「Easy-care」。これは家庭で洗濯できる、シワになりにくい、すぐ乾く。特にほとんどのアイテムが洗濯機を使って洗えるということです。



2020年、35才で「CFCL」を設立した高橋悠介さん。ISSEY MIYAKE MENのデザイナーを6年間務めたキャリア、独自の哲学とファッションへの思いを抱いて、新しいステージに挑んでいる


福田:今回コラボさせていただいた「ポッタリーシリーズ」も、オーダーの段階ですごく素敵なものに仕上がるんだろうなと思っていたのですが、出来上がって見たら本当に想像通りで。再生ポリエステルの素材のよさと立体感が綺麗に相まって相乗効果として出ています。「CFCL」の特徴である3Dニッティングならではですね。コンピュータでプログラミングしてニッティングしているそうですが、手がけたきっかけは。

高橋:コンピュータプログラミング・ニットは、1990年代から技術としては存在していました。2000年代前半、文化ファッション大学院大学に在学中に出合って、「これはおもしろいぞ」と思いました。他の人がやってもいなかったので、すごくチャンスではあったんですよ。ファッションの中でもカテゴリー的にはブルーオーシャンだと考えていて。「ニットをベースにドレスを作りたい」というのはずっと温めていました。僕が学生だったころは、例えばパリコレクションでは、ニットをメインとしたブランドはほぼなかったんですよ。ただファッションの歴史自体を振り返ると、100年ぐらいですごくスタイルがカジュアル化してきています。今、社会全体のオケージョンに対する考え方というのがかなり変わってきている。ここ数年で「ニットウェアがオケージョン服として成立する」という社会的な背景というのも存在している。だから、コンピュータープログラムニットで「Sophisticate」されている服が成立すると自分では思っています。



今シーズン、ロンハーマンが別注した「ポッタリーシリーズ」。高橋さんが大学院で培ったコンピュータプログラミングによる3Dニッティングにより、立体感あふれる造形美を生んでいる


福田:高橋さんがデザインソースにしているものや、インスピレーションの源流はありますか。

高橋:子どものころ、建築家になりたかったんですよ。建築とプロダクトデザインがすごく大好きなので、そういう趣は大事にしていますね。それとファッションデザイナーは、ミリタリーやフォーマルウェアからのディティールを引用するケースがとても多いんですけど、それは意識を持って見直したいとは思っています。例えば、デニムパンツにはインディゴ染料やリベット、細かなディティールの存在意義がなくなったにもかかわらず形だけ引用されているデザインに関しては、本当に今の時代に必要なのかということを徹底的に考えます。「CFCL」では、例えばテーラードジャケットのフラップポケットのフラップをなくし、ポケットの位置を、手を入れやすいようにサイドに移動させました。これは、フラップポケットのマナーやルールが現代で必要がなくなったと考えるからです。しかし、テーラードジャケットのラペルはオケージョンに対応するという現代にも必要な理由があるため、そのまま残しています。

福田:建築がお好きなんですか。高橋さんがデザインする服は立体美も感じて納得するところがあります。そして、見た目が素敵なだけではなく、なんと洗濯機で洗える。スタッフも「これだけ着やすくてかわいくて、しかも洗濯機がOKなんですか」と驚いています。

高橋:そうなんですよ。洗濯機で洗えるワンピースって意外とないんですよね。

福田:本当にないですよね。私も洗濯表示を二度見してしまいました。ニットで洗えるものってもちろんあるのですが、「洗濯機でいいの!?」というのは本当に衝撃的で。でも、この素材だったら、型崩れもしなくていけるんだろうな、と。デザインだけではなくて、世の女性たちにはすごくポイントが高いと思います。男性がどこまでそれを気にするかはわからないですけど……。

高橋:いや、男性もやっぱり大事ですよ。糸のチョイスのタイミングから「これは洗濯機で洗える糸なのか?」というのは確認して、洗えないものは基本的にウール以外選ばない。でも、それはとても難しく「どこに妥協するか」ということでもあります。例えばシルクの光沢とポリエステルの光沢は圧倒的に違って、シルクの方が少し落ち着いていて上品なんですよね。でも、シルクは洗濯機で洗えない。で、どちらを取るか。「現代生活のための衣服」を考えた時に、どんなに店頭では美しくても、「イージーケアじゃなければ『CFCL』ではない」という判断なんです。



この夏に第二子の母になるロンハーマン ウィメンズバイヤー 福田円。高橋さんが子どもの誕生が創業のきっかけの一つになったこと、そして、次世代への責任についての思いに終始、うなずいていた


福田:なるほど。高橋さんは早くからサステナブルな服づくりを手がけていることで、知られていますね。「Consciousness」にかかわってくると思うのですが、「CFCL」も原料の調達から製造廃棄までの環境負荷を公表するLCA(ライフサイクルアセスメント)も、日本のファッション業界では先駆けて実施しました。

高橋:コンピュータープログラミング・ニットは、裁断の工程を省略できるものが多くほぼゴミが出ないんですよ。糸をセットして3Dプリンタで出力されるので、3~4cmぐらい「捨て糸」というのが付くんですけど、それ以外はムダがほぼ出ない。例えば、「CFCL」が今後成長したとして、市場の近くに工場を作りプログラムを飛ばせば生産もできるんですね。結果、輸送のためのCO2の削減にもなる。そういう意味でもプログラミングによる全自動で製作できる服に大きな可能性を感じています。ただ「環境問題」をブランドとしてうたうつもりはなかったんですが、今、時代的に「環境に配慮しているブランド」として注目されてしまっている。でも結局、店頭で「これはこういう素材で、こうで、こうで……」と説明しても、お客様には全然響かないんです。「一つ目が色」「二つ目が触り心地」「三つ目にデザイン」。その順番で基本的に人は共感して入り込んでいくから、そこは大切にしないといけない。このインタビューでこれをしゃべっているのは、「CFCL」を店頭で見て「素敵だな」と思った人がより好きになってもらうためです。これが最初になると、本当に格好悪いというか押し付けがましいというか……。だから基本的には「ニットでおもしろいかわいいクリエイションをしたい」というのが一番なんです。そこで共感してもらうことがとにかく大事ですね。



環境への負荷が低い「CFCL」の服。だが、高橋さんはそれを前面に出したくないと考えている。まずは人の感性に訴えるデザインありきと語る


福田:今、ロンハーマンもSDGsに積極的に取り組んでいるのですが、まったくその通りだと思います。まずは「かわいい、素敵!」と、お客様に服を手に取っていただきたい。結果、それが環境に配慮したものであればいい。そういう「着ていて美しい」とか「楽しい」とかが大切な要素だったので、「CFCL」はそれを本当に両方兼ね備えていらっしゃるブランドなんじゃないかなと思っていました。個人的な話ですが、ファッション業界が環境に悪い影響を与える産業の一つとして批判された時に、すごく後ろめたく、混沌とした時間を過ごしていたんです。「私、ファッション業界にいて、どうしていくんだろう」と。今、私たちが発信することで、逆に変わっていける気がしていて。ロンハーマンではそういった思いを共有できるメンバーがいたのも幸いでした。

高橋:2019年、結婚して子どもが生まれて、ありがちですけど急に景色が変わったというか。「今の自分の仕事に対する態度は娘に誇りを持てるのか」という意識を持つようになったんです。娘が生まれてくる前後だったんですけれども、グレタ・トゥーンベリさんが話題になっていて、彼女を批判したり言い訳をしたりする大人はみっともないな、と。小学校の環境の授業で感じた違和感がよみがえってきたりもしました。母親が社会派のライターだったので、幼少のころから環境問題も身近だったんですね。その時に眠らせていた違和感がふつふつとよみがえり、自分の心が揺さぶられるようになってきたんです。会社の中でデザイナーという立ち位置では、サプライチェーンの透明性や雇用、環境への影響など包括的なクリエイションが難しいんです。だったら自己資金で自分の会社を作った方が早い。無名のグレタ・トゥーンベリさんが本当に一人で行動を起こしたことによって、あれだけ社会が動いた、というのがすごくはげみになりましたね。大きい力ではなくて小さな力でも拡散する力というのが昔よりも圧倒的に今の方がある。今だったらできるという感覚があって独立を決めたという経緯があるんです。



ハイゲージながら、驚くほどの軽さと伸縮性を実現。福田も「おかげでマタニティウェアを買う必要がありませんでした」と笑う


福田:そうだったのですね。ところで、高橋さんはロンハーマンにどんな感想を持たれていますか。

高橋:「CFCL」を立ち上げるのにあたって、マーケティングの責任者からロサンゼルスに行くように言われたんですよ。東南アジアの市場が成長しているので、パリやロンドン、ニューヨークとかの寒い所ではなく、ロサンゼルスの解放感みたいなものが今の時代に大切。だから、カリフォルニアのライフスタイルを感じてきた方がいいと。それで現地のロンハーマンにも行ったんです。「CFCL」の服が、あの店頭に置かれているイメージを立ち上げの時に思っていたんですよ。

福田:えっ、初耳です。

高橋:だから、コラボのお話をいただいた時に、「あ、意識したかいがあった」ではないですが、うれしかったですよ(笑)

福田:本当ですか!?

高橋:娘が生まれて家族で休日を過ごす時に、夫婦ともファッションが好きなので多くのお店を回るんです。やはりロンハーマンは本当に素晴らしいなと思うのが、子どもに対してのフレンドリー感。棚とか備品が安全に配慮されている。絵本があったりとか、カフェも子ども用のいすが置いてあったりとか。スタッフがお客様目線でいき届いている風土みたいなものが、すごく気持ちがいい。今回、一緒に取り組むことができて、うれしく思っています。

福田:すごい! ベタぼめしていただいている(笑)。今回はお時間をいただき、ありがとうございました。



高橋さんの知識の豊富さと意識の高さに感心しきりの福田。だが、ファッションが好きというベースは同じ。「こんなにお話をしていただいて、一人で楽しんでしまったという感じです。今後も一緒にお取り組みしていけたら、すごくおもしろいだろうなと思います」


Profile

高橋悠介 Yusuke Takahashi

「CFCL」代表兼クリエイティブディレクター。2010年、文化ファッション大学院大学修了後、三宅デザイン事務所に入社。2013年、ISSEY MIYAKE MENのデザイナーに就任。2020年、「CFCL(シーエフシーエル)」を設立

Latest Issue

Back to Index