神々が棲む島——インドネシア、バリ。神々しい海と山に恵まれた美しい島。寺院やパワースポットが点在し神秘的な雰囲気に包まれ、伝統的な音楽や舞踊などエキゾチックな文化に触れることができる、世界でも指折りのリゾートアイランドです。またサーファーにとってはワールドクラスの波に出合えるデスティネーションとして人気を呼んでいます。
ここ数年、この島に新しいムーブメントが起きています。世界中からアーティストやクリエイターが移り住み、創作活動を行っているのです。今では、そのセンスあふれるクリエイティビティが、ファッションブランドやメディアに注目を集めています。
「神々が棲む島」と呼ばれるバリ。人々の暮らしと信仰が密着していて、島内には1万以上もの寺院が点在している。太陽と水田が織りなす風景もどこか神秘的だ
4年前、ジョージさんがプロデュースしたホテル「THE SLOW」は、アートギャラリーも併設してカルチャーの発信地としても注目されている。現在はコロナ禍で休館中だが、
予約が取りにくい人気アコモデーションだ
「『THE SLOW』は、ただ滞在するだけのホテルではないんだ。ここでしか経験できない喜び、発見、楽しさを味わってほしい。アートや音楽、自然、食事、サーフィン、そして地元の人々との触れ合い。つまり、僕自身が興味を持っていることさ」
その思いをカタチにするために、「THE SLOW」にアートスペースを併設。知り合いのアーティストやフォトグラファーを招いてエキシビションを開催したことで、そのコミュニティの輪は世界に広がっていきました。バリが気に入ってチャングーに移住して創作活動をするようになったアーティストも少なくありません。当時、このエリアには既にハイセンスなサーフショップやアートスペースが存在しましたが、「THE SLOW」も呼び水の一つになり、新しいギャラリーやアコモデーション、セレクトショップ、カフェが続々とオープンしました。ひと昔前は水田が広がる静かな農村だったチャングーは、今ではバリ有数のカルチャースポットになったのです。
ジョージ・ゴロウさんが、2020年、海辺の町チャングーにオープンした「Times Beach Warung」(タイムズ・ビーチ・ワルン)。
このコロナ禍で地元のコミュニティの場が失われているが、きずなを取り戻す場になればと願っている
ジョージさんはオーストラリア出身、シドニー近郊のノーザンビーチーズで育ちました。サーフスポットが連なるエリアで、ジョージさんも幼少のころからサーフィンは暮らしの中の一部でした。仲間のサーファーはクリエティビティにあふれていて、現在は音楽関係やDJ、エディターとして活躍。ジョージさんも刺激を受けて、ファッションの世界に進むことに。アイウェアのデザイナーとしてキャリアを積み、ロンハーマンでも人気のデニムブランド、「KSUBI」(スビ)を仲間と立ち上げました。
そして、10年前に奥様とともにバリへ移住することに。
「バリには子どものころから父と一緒にサーフトリップに行っていたんだ。そのころから大好きな場所だったよ。波だけでなく島の人々に魅了されてしまった。僕も妻も仕事でいろんな国を旅したけど、バリほど二人の心をつかんで離さなかった土地はなかったのさ」
その後、ビジネスチャンスを得てニューヨークでも暮らしましたが、後ろ髪を引かれるようにバリへ戻ってきました。
知り合いの古いビーチバーをリノベーションした「Times Beach Warung」。ジョージさんのセンスが所々から感じられる
今ではチャングーの町はすっかりにぎやかになりましたが、ジョージさんのライフスタイルは変わりません。「すべてが自然の流れに沿った暮らしさ。太陽とともに起きて子どもたちとビーチへ散歩に行く。僕がサーフィンをしている間は子どもたちは砂浜で遊んでいるよ。毎日、時が静かに流れて、健康的に過ごしている。何もなければ、夜8時にはベッドに入っているね。早いでしょ(笑)。時々、妻と二人で自問するんだ。『ここ以外にどこか住みたい土地はある?』 もちろん答えは『ノー!』」と笑うジョージさん。
近年、欧米のアーティストがチャングーに移住しているが、サーファーも然り。カリフォルニアのプロサーファー、ジャレッド・メルさんもその一人。
ジョージさんの周りには自然とスタイリッシュな仲間たちが集まり、アートワークにも登場することも
「ロンハーマンとジョージさんは、毎年コラボレーションをしているが、今年は「Times Beach Warung」のアートワークをオリジナルTシャツに落とし込んだ「TIMES」を展開
ポップなアートながらもモノトーンの色遣いでシックな雰囲気に