ロサンゼルス・ハリウッドに本店を構える「OK the store」。オーナーであるLarry Schaffer(ラリー・シェーファー)さんの独自のセンスで世界中からセレクトされた本や雑貨、ジュエリー、テーブルウエアなどのアイテムが、有名なクリエイターやデザイナー、アーティストからも高い人気を呼んでいます。2年前、世界に先駆けて「I’M OK」として日本にもストアをオープン。今シーズンから、ロンハーマン千駄ヶ谷店、みなとみらい店の2店舗でショップ・イン・ショップを展開しています。話題のラリーさんとはどんな方なのでしょうか。お話を聞いて、その内面をのぞいてみましょう。
日本のメインストア代官山店、二子玉川店に続き、ロンハーマン千駄ヶ谷店、RHC ロンハーマンみなとみらい店の一角にショップ・イン・ショップとしてオープンした「I’M OK」。
まずは「OK the store」のコンセプトから説明しましょう。他のショップとは違い「ただ物を売る」のではなくて、「ライフスタイルのアイデアを売る」ということです。生活に対するフィーリング、つまり意識や考えを売っているととらえてください。モダンでクリーンなライフスタイル自体が商品です。実用的でありながら美しいものに囲まれて暮らす、しかもシンプルな生活、そんなライフスタイルを提案しています。ですが、それらの美しいモノは、主張しすぎず生活に溶け込んでいてとても自然な存在なのです。そんなシンプルなライフスタイルが「OK the store」そのものなのです
—そこがクリエイターに支持されていると。
本当にいいストアというのは、その店の人を映し出す鏡のようなものだと思います。僕はこれまで世界中を旅していますが、オーナーや働く人たちのビジョンがわかるような店を探して訪ねることが好きなんです。「OK the store」自体がそのコンセプトを貫いているから、同じ匂いがしてひかれるのでしょうね。例えば、自分の店にいて、たまにお客様から、これは20年前にここで買ったものなんだけれど、今でも大好きで毎日使っています、と言われることがあります。それは僕にとっては成功の証、つまり僕自身が店に投影されているということだと思うのです。僕の店には本当に様々なジャンルのモノを扱っています。ですから、例えばガラス製品がほしくて店を訪ねてくれたお客様が、他のアイテムにも興味を持ってくれて、カテゴリーを越えてモノを好きになって購入してくれることがあります。バラエティは豊かだけど、そこには僕のビジョンがある。それがクリエイターたちの感性をくすぐり、クリエイティビティを刺激するのでは。
僕のキャリアは家具の会社から始まっているんですよ。まだ若かった僕を、その会社は管理職に抜擢してくれて、2店舗を管理する立場を与えてくれました。バイヤーとして、ヨーロッパまで買い付けに行ったこともありましたね。残念ながらその会社は閉じてしまったのですが、あれほど素晴らしい会社はなかったのでは。とても革新的で時代のエッジをいっていました。僕はその会社で自分の能力を最大限に発揮できたので、もう2度と同じような仕事はできないだろうと思いました。ですが、一方で、その会社が扱っていた家具があまりにも高額で、誰でも気軽に購入できるようなものではなかったので、自分ならばもっと普段の生活に密着した、自分のような普通の人々が集まれるようなカジュアルな店をやってみたい、と思うようにもなったのです。
—インテリアの世界で活躍されていたとは。
その後しばらく定職に就くこともせず、ふらふらとしていましたが、ヴィンテージのガラス製品を扱う会社で働き始めることになりました。そこでガラス作家たちに出会ったことにより、様々なアイデアが浮びました。当時、僕は小さいけれど、とても美しいリチャード・ノイトラ(注:20世紀中頃に活躍した米国を代表する建築家)がデザインした家を手に入れ、ガラス作家たちが彼らの作品を発表できるようなギャラリーを始めました。僕はそこで、友達やデザイナーたちに出来上がった作品を紹介して売っていたのですが、それが話題となり、ある会社から作品を売らないか、というオファーをもらったのです。つまり、そのころいろいろなことが上手く融合し始めたのです。そしてそれがショップオープンへとつながっていきました。
僕はあまりにも多くのモノに興味がありすぎるんです(笑)。もしクリエイターになるのであれば、一つのモノを極めるべきです。例えばガラス作家であれば、ガラスだけをつくり続けなければならないじゃないですか。しかも、そのデザインに関しても一つの特徴が確立されるのが普通ですが、僕の場合はこっちのデザインもいいな、あっちのデザインもいいな、となってしまう。とてもじゃないですが、クリエイターには向いていない。だけど、僕はとてもたくさんの人たちと一緒に仕事をすることが好きです。ですから、キュレーターと言わせてもらっているのです。
—ですが、逆に言えば、たくさんのジャンルに精通していなければなりません。どのようにして審美眼を養ってきたのでしょうか。
元々はヴィンテージへの興味から始まりました。僕が言うヴィンテージとは、レトロというのではなく、古いのにもかかわらず、今デザインされたように見えるもの。たとえば、イームズの椅子なんかは、70年前のものであっても実に洗練されている。そういうものに心を動かされるんです。今素晴らしいものが、50年後も素晴らしいと思える、それが僕にとってのヴィンテージです。だから、モノを選ぶ時にそれは20年後も30年後も素晴らしいと思えるかどうか、でセレクトしています。その考えが審美眼になっていると思います。
—ストアでアイテムを取り扱う、扱わない。その判断基準はありますか。
繰り返しになりますが、そのアイテムがこれから先どれだけ長く愛されていくのか、と言うことです。なんでも買えるほどのお金を持っていても、とても気に入って買った商品を「オンリーワン」として長く使うことこそが、エコとサステナビリティにもつながります。いくら素材がエコロジーでも製品自体を長く使うことができなければ、それはエコとは言えない。後世まで愛用することが本当のエコでサステナビリティなのでは。”Owning less, but owning better”
—「ミニマムでもよいものを長く持ち続けることが大切」という意味ですね。いい言葉です。
もう一つは、購入者にとって「美しい」と思ってもらえることも大事。美しいから買ったらすぐに使ってみたい、と思ってもらえるようなアイテムを選びます。80年代、僕はいろいろなヴィンテージストアに出入りしていて、たくさんのヴィンテージウェアを持っていました。その若いころの経験によって、その中からさらに本当によいものはどれかを見極める能力が身についたことは確かです。ところが、パリに行った時、僕がそれまでたくさんの服を持っていたことがうれしかったのに、知り合いのワードローブにはほんの少しの服しか入っていなかったです。そして、幾つかの一点モノの素晴らしい服をとても大切に着ていました。その体験が「美しい」モノとはこういうことなんだ、と気づかせてくれたのです。
僕の生活はすべてに関連性があります。自分が美しいと思う気に入った家に住み、そこに合う機能的だけれども美しく、毎日使い続けたいと思うモノを使いながら暮らす。食器一つにしても、自分が大好きなモノを使います。飾っておくのではなく、使うのです。そして何より「人」です。僕のライフスタイルに「人」は欠かせない。仕事で会う人、プライベートで会う人、一人一人が僕の毎日の生活につながっています。だからこそ、僕は商品を売っているのではなく、生活のアイデアを売っていると言えると思います。それこそが僕の理想のライフスタイルです。
—ロンハーマンに「I’M OK」 のショップ・イン・ショップがオープンしました。感想をお願いします。
ものすごくワクワクしていますよ! 僕は南カリフォルニアで育ったのですが、若いころの僕にとって、ロンハーマンは最高にかっこいい店でした。よくそこで買い物をしている「人」を見に行ったものです。お客様も最高にかっこよかった。今ロンハーマンの仲間になり、自分のショップをオープンできるなんて、最高の幸せです。それから、文化の違う国に、僕のライフスタイルを披露できることがさらに気持ちを高ぶらせます。僕が提唱してきたユニバーサルアイデア、分け隔てなくすべての人に通じるという考えが実現しようとしているのですから。このショップインショプに人が集まり交わり、コミュニティが生まれてくれたらハッピーですね。
—ラリーさん、どうもありがとうございました。
Profile
ラリー・シェーファー Larry Schaffer
1999年、ロサンゼルス、ハリウッドにOK the storeをオープンさせる。独自のセンスでセレクトしたアイテムが人気を呼び、クリエイターやアーティストに集まるホットスポットに。2019年、海外初進出となるストア、I’M OKを東京、代官山にオープンさせた。