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-Meets Your Artist- Taisuke Yokoyama

-Meets Your Artist- Taisuke Yokoyama

Ron Herman Journal

Issue 18Posted on Apr 16.2021
アートは見る人の心を揺り動かし、時に日々の生活に新しい光を差し込ませてくれます。「ファッションとは愛にあふれ、刺激的で楽しく、自由であるべきだ」とは創業者ロン・ハーマンの言葉ですが、この「ファッション」というワードは「アート」に置き換えることができるでしょう。ファッションとアートと形は違いますが、その先にあるのはみんなの「スマイル」そして「幸せ」ではないでしょうか。
そのような思いから、ロンハーマンは、これまで同じフィロソフィーを共有する国内外のアーティストの皆さんとともに、アート展を開催してきました。今回、紹介するのは現在、千駄ヶ谷店で『THE PIER』を展示している横山泰介さんです。
横山さんの地元、湘南を訪ねてお話を聞きました。

鎌倉で育ち、現在は葉山に暮らす横山泰介さん。やさしい物腰、話し方は湘南の海のように穏やかだ
 
白い砂浜の向こうに、穏やかな海が続く葉山のビーチ。カメラを手にした横山泰介さんがビーチへ向かうと、出会う人が次々と声をかけてきます。にこやかにあいさつをかわして、しばらく立ち話を。湘南らしいゆったりとした海の時間が流れていきます。横山さんは、湘南を象徴する写真家。仲間や友人たちからは「たいちゃん」、年下からは「たいすけさん」と呼ばれて親しまれています。
横山さんは、雑誌や広告、ミュージシャン、俳優や作家の撮影など多岐にわたり活躍しています。国内外と活動のフィールドはボーダレスですが、湘南から離れることはありません。横山さんの人生は、ずっと“海”とともにあるからです。50年以上にわたり楽しんでいるサーフィンは、横山さんのアイデンティティの一つ。
 「やっぱり、自然の中にいることが一番大切だから」
ライフワークの一つが、サーファーのポートレート撮影。これまでに、その名も『surfers』という写真集を2冊手がけています。ページをめくっていくと、世界中の有名、無名のサーファーが、横山さんのカメラに向かって、遊び心あふれる表情を浮かべたり、ユニークなポーズをする姿に引き込まれていきます。まるで、お互いにセッションを楽しんでいるよう。きっと波を待つ海の上でも、このようなメローでファンな雰囲気が漂っているのでしょう。
「お互いサーファーだから何も必要ないんです。すごく純粋じゃないですか、サーファーって」

ロンハーマンでもお馴染みのサーフアーティスト、タイラー・ウォーレン。光と陰が生むコントラストが美しい。
「モノクロは想像力がふくらむから好きです。誤魔化しがきかないから難しいですが」と横山さん
 
写真家になる宿命——横山さんの人生を振り返ると、そんな言葉が浮かんできます。横山さんの父親は風刺漫画家の横山泰三氏、伯父は『フクちゃん』で知られる国民的漫画家の横山隆一氏。鎌倉を代表する芸術一家で育った横山さんは、周りに絵画や画集などアートがあふれていました。「自分は絵の才能はからっきしだった」と謙そんしますが、父親から受け継いだアーティストとしての感性を育むには最良の環境だったのでしょう。
やがて、映画の道を志すようになります。サーフィン映画を作るために、撮影技術を習得しようと撮影スタジオのカメラマンのアシスタントに。「映画の撮影は、定常光という照明で光をつくっていくんですが、そのこだわりがすごい。撮影しない場所まで光をつくるとか、その精神がすごく勉強になりました」と振り返ります。後に写真家として役に立つことになるライティングや構図の基礎を自然と身につけることに。2年ほどして、京都・太秦の撮影所へ栄転するチャンスが訪れます。ですが、波乗りができなくなるというサーファーらしい(?)理由で辞退。ほどなくして知り合いの紹介で、写真家の事務所に出入りするように。
そして、人生の転機が。台風のビッグウェーブが押し寄せる鎌倉・稲村ヶ崎。父親のカメラを持ち出して撮影した波の写真が、サーフィン雑誌のポスターに。結果、今でも伝説的なサーフィンコンテストのビジュアルに使われる、日本で一番有名な波の写真として知られるようになりました。その一枚をきっかけに写真家としてデビュー。「そこからサーフィン雑誌とともに写真家として育っていきました」と、必然と偶然の運命が、写真家・横山泰介さんを生んだのです。
 
右:サーフアーティストの草分け、アンディ・デイビス。リラックスした表情を引き出せるのは横山さんならでは 
左:カリスマ・サーファー、ジョエル・チューダーと息子のトッシュ。「カメラは暴力だと思うんです。僕もそうですが、レンズを向けられると嫌じゃないですか。まずは撮る側が緊張しないようにしないと」
 
横山さんのポートレート写真には不思議な魅力があります。その時、その場のリラックスした雰囲気が作品からにじんでくるのです。
「やっぱり人に興味があるんですよね。インタビューで同席する機会が多いじゃないですか。そうすると、インタビュアーが話している間に、横で聞くことが多い。そうすると、その人のことをどんどん『面白いな』と思う。で、いざ撮影になっても、ついつい話し込んでしまって、1枚も写真を撮らないので、『写真はどうしたの?』と聞かれてしまうこともあります。一期一会ではないですが、その人のバックボーン、その人の瞬間が写ればいいと思っています」
これまで何百人、何千人も撮影してきた横山さんだが、「名前なんか全然覚えられない頭の持ち主なんですよ。でも、顔は絶対に覚えちゃう」。横山さんが向ける無垢で温かい眼差しが、レンズを向けられる人にも伝わり、きっと心を許すのでしょう。
「写真家としていいのかわからないけど、『写真を撮っている』という感じではないんです。カメラを持たずに記録作業ができたら最高だと思っています」

横山さんのアートエキジビション『THE PIER』は、4月23日まで千駄ヶ谷店で開催。今後、8月28日から六本木店を巡回の予定だ
 
現在、横山さんの最新作品は、ロンハーマンにて巡回展示をしています。タイトルは『THE PIER』。カリフォルニアのピア(桟橋)をテーマに空撮した雄大かつ美しい風景写真です。
「現地でヘリコプターの教官をしている後輩のサーファーとともに空からピアを巡ったんです。ピアの近くにはマリブやハンティントンビーチなど有名なサーフスポットがあるので、面白くワクワクして夢中になって撮影しました。ハーネスを着けているんですけど、ヘリコプターのドアから身を乗り出して。高所恐怖症なんですけど、カメラをのぞいていると全然平気(笑)」
 
『THE PIER』の写真はすべてサーフボードと同じ工程でコーティング。手作業だからこその光沢が作品に独特な温かみを生む。
地元のクリエイター児玉譲二さんとのコラボレーション
 
「ピアはカリフォルニアのサーフカルチャーの象徴」と横山さん。そんな思いを作品に込めるために、『THE PIER』にはサーファーならではの表現がされています。
「普通、写真を展示する時は、アクリルガラスにサンドイッチするんです。ですが、今回はポリエステルの樹脂でコーティングして、サンディングをして光沢を出しました。これはサーフボードの仕上げの工程とまったく同じなんですよ。サーファーの思い入れかもしれないですが、アクリルガラスとは異なる温もりを感じられます。ぜひ、飛行機の高度ともドローンとも違う、普段見ることのできない『鳥の目』を楽しんでほしいですね」
実際に作品を目にすると、樹脂に反射される光は、まるで滑らかな海のきらめきのよう。カリフォルニアの太陽の光、さわやかな潮風にビロードのような波……。西海岸の空の旅を、ぜひ! 千駄ヶ谷店の次は六本木店で展示の予定です。

古きよき湘南の空気を身にまとう横山さん。メローな人柄がレンズの向こうの笑顔を引き出す

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