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CROSS TALK02 ebureデザイナー 古屋ユキさん【前編】

CROSS TALK02 ebureデザイナー 古屋ユキさん【前編】

Ron Herman Journal

Issue 17Posted on Mar 29.2021

ロンハーマンにかかわる方を迎え、さまざまなお話をうかがいます。第2回目のゲストはebureのチーフデザイナー 古屋ユキさん。ホストはロンハーマン ウィメンズバイヤー 福田円(まどか)です。


人生を、女性であることを楽しむ服を


福田:まずebureのブランドのコンセプトを教えていただけますか。

古屋:大人の女性のためのブランドで、「さらに人生を楽しむという気持ちをかき立てる服」というのがコンセプトです。福田さんはバイヤーとして、ebureはどんなブランドだと思っていますか。

福田:今回、対談するので改めて考えてみたのですが、人生だけではなく女性であることをすごく楽しめるブランドだと思います。そして大人としての余白があって、柔らかさと強さを兼ね備えた方が素敵に着ているイメージがあります。私なんかは、毎日バタバタしていて、まだそのレベルにいっていない。だからこそ、ebureの服を着ると、背筋が伸びたり、少しゆっくり行動してみるとか、その服がそういう理想の自分にしてくれるような気がします。何か不思議な力があるブランドだなと感じています。

古屋:ロンハーマンのアイテムの中では、異質な感じなのではと思っていました。ですから、福田さんの言葉はとてもうれしいです。

福田:いえいえ、ありがとうございます。


ebure(エブール)のチーフデザイナーを務める古屋ユキさん。穏やかな語り口ながらも、言葉の節々に服づくりにかける強い思いとこだわりが感じられる



福田:ebureの服づくりで、デザイナーとして一番重視しているところはなんですか。

古屋:まずは素材。素材を見た時に、「こういうデザインをしたら絶対いい」と感じるんです。ディテールであれこれ小手先でやる、というのは私も若いころはやっていましたが、それを経てここに辿り着いた感じです。

福田:なるほど、素材ですか。

古屋:すべて素材から始まりますね。やはり天然素材というのが一番。冬だとウール、カシミヤ、アルパカとか。春夏ですとコットンやリネン。ebureはシーズンコンセプトはあまり強くないのですが、素材を段々集めていくと「これ」というものにジワジワまとまっていくんです。素材が素敵だと、デザインを削ぎ落しても成立しますから。それと、長く着ていただける、ということも大事です。今は「環境にやさしい」ということが重視されていますが、そこにはつくる責任も含めて「物の本質」みたいな「物のよさ」、「本質美」が大切になってきます。その根本にあるのは、やはり素材です。

福田:ebureの服は、そういう素材の本当の美しさや「品」も、形になって表れていると思います。

ebureのコンセプトは“さらに人生を楽しむという気持ちをかき立てる服”。今年の春夏に、初めてボタニカルダイを手がけたが、ebureのエスプリは息づいている


古屋:ロンハーマンのお客様は感度が高いので、それを感じ取っていただけるんでしょうね。ebureをロンハーマンに置いていただいて、私はすごく感謝していて。ロンハーマンは、お客様の間口も広くて、素敵なお客様がたくさんいらっしゃる。「風が通り抜けている感じ」がすごくします。そういう心地のよさやリラックス感がebureにも加わっていると思うんです。

福田:ロンハーマンのお客様はebureに共感していただいている方が多いですね。コンセプトに通じるようないろいろ経験されている30代後半から60代ぐらいまでの方はもちろん、とても若い方もいらっしゃってすごく幅が広い。そう言えば、不思議なことがよくあるんです。ロンハーマンのストアでは、陳列をブランドごとにまとめているわけではないのですが、「えっ、(気になって)取るもの取るもの全部ebureなんだけど!」みたいなお客様がいらっしゃいます。

古屋:それは、うれしいですね。

福田:多分、ebureの服が放つ空気をお客様が感じているんです。お客様にもデザイナーの古屋さんの思いが伝わっているのでは。そこはebureの持つ力じゃないかな、と思います。

ロンハーマン、ウィメンズバイヤーの福田円。ebureには他のブランドにはない不思議な力があると言う


福田:ロンハーマンでは、この春夏からebureのボタニカルダイの服を置かせていただいていますが、ボタニカルダイを手がけたきっかけはなんですか。

古屋:今シーズン、初めてボタニカルダイに取り組んだのですが、数年前から頭の中にはありました。ですが、いわゆる「草木染め」というと、すごくいい色だけど製品染めしているので製品自体がクタッとしたような、ちょっとほっこりしてしまうようなイメージが強くて......。ebureはビシッとしたもの・張りのある生地というブランドのイメージがあるので、「ちょっと違うな」と落としどころが見つけられなかったんです。

福田:確かに、ebureはそういうイメージですね。

古屋:ただ SDGsの取り組みや環境問題についてすごく考えるようになり、今までの自分だったら「私たちには無理だよね」という諦めがあったんですけど、環境にやさしいボタニカルダイをぜひやってみたいという思いが強くなりました。で、製品染めではなくて、生地の状態で綺麗に染められたら、ebureらしいビシッとした仕上がりになるのでは、と思っていろいろと調べたんです。そして、「ここだったら私たちと上手くやっていける」というボタニカルダイ専門の会社と巡り合えたんです。

「ボタニカルダイに挑戦してみたい」と、ずっと思っていた古屋さん。だが、いわゆる製品染だとebureらしい生地の張り感を表現できない。生地を張った状態で染める「ジッガー染色」という特別な工程で実現させた


福田:ロンハーマンも1年前の2020年春夏から、自分達の社会的責任や意義を再考し、ブランドとしてサスティナビリティシフトしていこうと動き出しました。アパレル産業は環境負荷ワースト2と叩かれることもあって、ファッションの世界でしか生きてこなかった私はものすごく落ち込むこともありました。ただ、何もしないまま「そういう業界だから、もういい」となるのは、若い時から好きだった洋服業界に対して、「やっぱり違うな」と思っていて。すごく大それたことだけど、業界を少しでも変えていけるような何かができるのだったら、小さなアクションでも自分たちにできることから少しずつ、お客様に提案していきたいと思ったんです。染色過程での環境負荷に対するひとつのアプローチとして、昨年の秋冬は素材そのままの美しさを生かした無染色にフォーカスしました。そして、今シーズンは染めるとしても自然の原料を使った色にしようと、いろいろなブランドとボタニカルダイを展開し始めました。

古屋:そうだったんですね。昨年はあのようなモヤモヤした社会状況だったじゃないですか。だからこそ、これまでやってみたかったけどできなかったことを「今、しよう」と思って、次シーズンに向けてボタニカルダイのリサーチを始めていたんですよ。

福田:なるほど。私たちも秋冬の素材でボタニカルダイというのはすごく難しかったので、春夏は絶対にボタニカルダイで何かやりたいなと思っていました。そうしたら、ebureからいただいた春夏シーズンのリストに「ボタニカルリネン」という言葉を見つけて、「やったー!」と。ebureが手がけるのだったら、ほっこりしたものではなく、すごく美しいものになると、すぐに「別注をしたいです」とオファーをしたんです。

古屋:お互いに同じ方向を向いていたんですね。

福田:後編では、その別注についてお話をさせてください。


南アメリカの先住民族が古来より使っていた「ログウッド」で染めた生地でチュニックとパンツを。化学染料にはない奥行きのある深みのある色合いが美しい

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