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ALIITA

ALIITA

Ron Herman Journal

Issue 84Posted on Dec 26.2023

恐竜やライオン、パームツリーにオウム、スイマーにスノーマン……。絵本から飛び出してきたようなチャーミングなデザインに思わず、「かわいい」と声を出してしまいそうになる「ALIITA」(アリータ)のジュエリー。遊び心がありながらも洗練されたクリエーションで人気を呼んでいます。「美に対するアプローチが他のジュエリーブランドとは少し違うと思います。お客様が私たちのジュエリーを見て、『わぁ、これは楽しそう!』とほほ笑んでくれます。これこそがALIITAに込めた思いなのです。ジュエリーというと、とてもおごそかなイメージがあります。ALIITAは職人の繊細な技術でつくられていますが、躍動感あり人を自然に笑顔にできるものです」。そう語るのは、デザイナーのシンシア・ヴィルチェス・カスティリオーニさんです。



見た目もキュートな ALIITA (アリータ)のジュエリーたち。つくり手の特別な思いが一つ一つに込められている


2015年にイタリア、ミラノでスタートしてから、今では世界10カ国以上に多くのファンがいるALIITA。シンシアさんがブランドを手がけたのは、20代半ば。シンシアさんのそれまでの人生のすべてが、ALIITAに反映されているといってもいいでしょう。南米ベネズエラで生まれ育ち18歳で、アメリカ、ボストンへ留学。そこで運命的な出会いを果たします。「学校に行った初日に今の主人と出会いました。もしかすると故郷が同じかな、と思ったのですが、彼はイタリア人でした。そしてあっという間に恋に落ちてしまいました。で、彼がいるからイタリアに行ったというわけです。まだ、子どもだったわ」と、照れ笑いするシンシアさん。



ALIITAのデザイナー、シンシア・ヴィルチェス・カスティリオーニさん。手がける作品と同じく透明感と明るさを身にまとう


ミラノに移り住んで、やがてご主人と結婚。「主人が私のジュエリーブランドを立ち上げる夢を後押ししてくれました。子どもたちの存在も大きく影響しています。家族との暮らしの中からわき起こる感情をジュエリーのデザインに盛り込んでいます。例えば、私は子どもたちと本当によく遊ぶのですが、彼らは恐竜が大好きで、恐竜は自然に私の日常に入り込んできました」。この「日常」こそがシンシアさんのデザインの原点なのです。「毎日いろいろな物を目にします。その一つ一つがデザインにインスピレーションを与えてくれるのです。自然だったり、子どもと遊ぶ玩具や海だったり、日々の暮らしそのもの。どれもが、とても大切で特別なものです。なぜなら、それは私自身ですから」。シンシアさんの暮らしに欠かせないのが一冊のノート。インスピレーションが浮かんだときに、すぐデザインをスケッチするためです。寝るときにもベッドのすぐ隣に置いておきます。



スイマーやシュノーケリング、恐竜など、シンシアさんのデザインには「楽しさ」とともにメッセージ性も併せ持つ


ALIITAのエッセンスに欠くことができないのが、シンシアさんの“過去”の日常である故郷ベネズエラです。「ベネズエラは本当にハッピーな土地です。ラテンのイメージに象徴されるカラフルな色や太陽の恵みや心温かな人々に囲まれて、いつも幸せな気分でいられました。パーティが大好きで、お祝いごとが大好きで、なんでもかんでもお祝いにしてしまう、そんな明るい場所でした。驚き、喜び、色、浜辺、音楽、さまざまなものが私にインスピレーションを与えてくれました。人々はみなほほ笑んでいて、前向きでいられました。その前向きな気持ちはALIITAに大きく影響していると思います」。「ALIITA」という名前は、シンシアさんが育ったベネズエラ、スリア州の言語で「大切なもの」を意味します。シンシアさんの過去と今、ベネズエラとイタリアの日常がALIITAなのです。



ロンハーマン千駄ヶ谷店を訪れたシンシアさん。「私がデザインしたい気持ちとロンハーマンの雰囲気はピッタリとマッチしています。お客様もそれに共感していただいているのでは」


シンシアさんにとって「大切なもの」だからこそ、ALIITAのジュエリーの一つ一つにメッセージも込めています。「このダイバーのネックレスは自然に揺れてまるで泳いでいるように見えます。それは、例えば新しい仕事を始めるときには、それまでの生活や世界を変えなければならない。新しい人々と交流しなければならない。不安があってもとにかく水中に飛び込むようにそこに入り込む必要があり、その瞬間はとても大事なことという象徴です。新しい環境に飛び込んだとき、きらきらと輝くジュエリーであれば、派手に自分の意見を主張したくなるかもしれませんが、そうではなくこのダイバーのように、地味でも慎重に対応することが大切なんだという、人々の深層心理を表現していると思っています」。



「ALIITA はどんなスタイリングでも合うでしょう。重ねて着けるのが楽しいと思います。シンプルな白い T シャツに合わせるととてもキュート。前ボタンシャツやブラウス、夏はタンクトップなどにも。自由にいろいろ楽しんでいただきたいです」


そして、心の中でともにあり続ける故郷へのメッセージも。「今のベネズエラは残念なことに政情不安から、人々は常にハッピーではいられないのです。私はもう12年もベネズエラには帰っていません。母がアルバという近隣の小さな島国の出身で、家族はそこで暮らしています。ですが、ベネズエラはとても大切な存在です。いつも私とともにあり、忘れたことはありません。ALIITAを立ち上げてから毎年、ホリデーシーズンに特別なジュエリーをつくって、収益の100%をベネズエラの子どもや働く女性の支援団体に寄付してきました。そのデザインは例えば恐竜やロボット、化学器具のフラスコです。まだまだベネズエラでは、古生物学、物理工学、科学は女性が働く機会を与えられるチャンスが非常に少ない分野です。そういう世界にどんどん女性が進出し、自立してほしいという気持ちを込めています。実際、恐竜やロボットのモティーフを見たときに『何これ? 変わったデザイン!』と思う人もいましたが、その背景にこのようなメッセージも込めているのです」。



ALIITAはシンシアさんそのもの。未来の「日常」から新しいモチーフが生まれていく


このようにジュエリーは、シンシアさんにとって特別な存在なのです。そこにはシンシアさんのアイデンティティが深くかかわっています。「とにかくジュエリーを愛しています。一瞬で、あなたがどう見えるかを変えてくれるものなのです。あなたに特別な付加価値を与えてくれる、とても重要なピースなのです。ベネズエラでは女の子の赤ちゃんが生まれると、新生児のうちにとても小さなピアスを耳に付けます。これは私たちの伝統です。つまり、私たちの生活のバックボーンの象徴なのです。その後に成長してからも、自分がどこでどのように生まれ育ったかを知るためのヒントにもつながっていきます」。ALIITAは、シンシアさんのこれからの人生とともにさらに輝きを増していくはず。きっと新しいモチーフは私たちを驚かせ、心を動かせてくれることでしょう。ALIITAの今後が楽しみでなりません。

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