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UNION LAUNCH

UNION LAUNCH

Ron Herman Journal

Issue 53Posted on Sep 30.2022

ものづくりとは、人との信頼づくりなのでは。「UNION LAUNCH」(ユニオン ランチ)のクリエイティブディレクター加藤公子さんの話に耳を傾けていると、そう思えてなりません。

ベーシックなアイテムながらも、凛とした上質さを身にまとう。デザインをただ追い求めるのではなく、ディテールはしっかりとした意味を持ち機能的。ムダなものを削ぎ落とすことから生まれる美しさ……。6年前、加藤さんが「UNION LAUNCH」をスタートして以来、そのこだわりの服づくりが、多くのファンをひきつけてきました。ロンハーマンでは、毎シーズン展開し、今季はメンズアイテムとして初のカプセルコレクションが登場しました。

 

この秋、ロンハーマン メンズで初となる「UNION LAUNCH」(ユニオン ランチ)のカプセルコレクションが登場。スウェットやTシャツ、オックスフォードシャツ、カーゴパンツなどベーシックなアイテムだが、服好きをうならせるこだわりが随所に光る

 

加藤さんのキャリアは異色です。ずっとファッション業界を歩んできましたが、バイヤー、PR、企画などアパレルのほとんどの職種を経験してきた自称「何でも屋」。ロンドンに留学していたこともあり、ヨーロッパと日本のファッションを結ぶお手伝いも。「本当に人とのつながりで、いろいろやらせてもらいました。ですが、絶対にやりたくなかったのが服づくり。大変な部分をずっと間近で見ていたので……」と加藤さん。

ですが、「やはり、自分のクリエイティブのところをしっかりと伝えるには、自分がリスクを背負わないといけない」と、「UNION LAUNCH」の前身となるブランドを立ち上げました。にこやかに自らの仕事について語る加藤さんですが、話の節々に服づくりへの真摯な姿勢がうかがえます。「すごく小さいことが気になってしまい、他の人が見たら何も気づかないようなところに変にこだわってしまうんです。もう本当に『そんなのどうでもいいじゃないですか』とか言われそうですけど」。と苦笑い。

そこまでの時間と労力を費やしてまで、加藤さんが服づくりと向き合うのには、ある思いがあるからです。「昔からアパレルメーカーは、良い工場さんを自分たちで抱えておきたいから、生産拠点を隠すという嫌な風潮がありました。工場の職人さんたちもヨーロッパなどではリスペクトされますが、日本では少々扱いが違います。自分がブランドを始めた時は、縫ってくれる人がいなかったら服なんてできないし、デザイナーよりも縫製してくれる人のほうが偉いという感覚でしたね」

 

「『ただのデザイン』ではなく、意味がある機能的な要素を考えて服づくりをしています」とクリエイティブディレクターの加藤公子さん。つくり手である職人をリスペクトして、信頼関係を築いてきた。今では「阿吽(あうん)の呼吸」で服づくりができるまでに

 

「工場さんの一番美しい仕様というのは工場さんが一番知っている。それを逆に聞きながら服をつくろう。職人さんは本当にすごいんです、ということを消費者の人に知ってもらいたい」。それが「UNION LAUNCH」を始めたきっかけの一つでした。「その工場さんが一番縫いやすくて綺麗になる技術を、どうセットしたら一番良くできるかを考えて、服をつくっています」。職人をリスペクトしているから、全力で服づくりに取り込む。そして、職人はその気持ちにこたえるために熱心に仕事をする。お互いの思いが共鳴して、プラスのスパイラルが生まれているのです。

「UNION LAUNCH」が手がけるすべてのアイテムは、下げ札に工場の名称を記載。さらにウェブサイトで職人へのインタビューを掲載しています。それは「つくっている人の顔が伝わらないと、いいものができない」という思いから。「御一緒させてもらった社長さんが、最後に『楽しかったな』と思えるような仕事の仕方をしていければ。そして、今、活躍している若い職人さんが楽しんで仕事をしている姿も伝えていきたいです」。“共同体として服をつくる”。それが「UNION LAUNCH」のコンセプトなのです。


レディースのコラボレーションも6年目を迎える。今シーズンはブランドの定番「CPOシャツジャケット」を素材を変えて別注。「UNION LAUNCH」では、生産した工場名を下げ札に明記。「工場の職人さんも喜んでくれて。すごくうれしかったです」と加藤さん

「UNION LAUNCH」は、ロンハーマンを含めて全国のいろいろなスポットで「UNION LAUNCH MARKET」というポップアップショップを開催しています。そこには服だけではなく、旬の野菜や果物、ハチミツやハーブティーなども。「MARKET」という名前の通り、さまざまな自然の恵みが地方から集まっています。これが「UNION LAUNCH 」の原点の姿と言っていいでしょう。

 

全国のさまざまな土地で開催される「UNION LAUNCH」のポップアップショップ「UNION LAUNCH MARKET」。富山の製薬メーカーが自然の恵みを用いてつくるコスメ「Taroma」も並ぶ

 

2015年、加藤さんは東京から富山へ活動のベースを移しました。アートディレクターをしているご主人が地域創生のプロジェクトにかかわりたいと、家族で移住したのです。そこで地方が持つ素晴らしさとポテンシャルを「肌感覚」で感じました。「この町を盛り上げたい。こうしたらいいんじゃないかな。不思議といろいろなアイデアが出て来たので、何かきっと呼ばれたのかな、と思いました」。「プロジェクトとして発信したい」と模索していた時に、加藤さんをインスパイアしてくれた方がいました。「友人が実家の高知にUターンしていたんです。地元で農家さんを巻き込んで、地場産業を盛り上げようとすごくがんばっていて。『一緒に何かやろうよ』と話をしているうちに、段々カチッとハマり始めて。しっかりと東京と地方の橋渡し役をやれたらな、と。服づくりを依頼している工場も地方ですし。思いが通じる人たちと何かができれば」。アパレルブランドという垣根を超えて、本当にいいものを伝える、という「UNION LAUNCH」の誕生でした。

 

「UNION LAUNCH MARKET」では、富山や高知など地方の魅力あふれる特産品を展開。異業種との協業も「UNION LAUNCH」の柱の一つ

 

その友人というのが、町田美紀さん。高知でグラフィックデザイナーとして活動しながら、地元の特産品を独自のセンスでプロデュースしています。「UNION LAUNCH 」がスタートして以来、加藤さんとともにマーケットなど協業プロジェクトに取り組む仲間です。「加藤さんは何でも全力で取り組みます。一度、相手を信頼したら、とことん信頼する。だから、相手がそれにこたえようとするのだと思います。私も加藤さんからのお仕事だけは、絶対にお断りしません。時々、スケジュール的に厳しい依頼もありますが(笑)」。
 
 
加藤さん(手前)と「UNION LAUNCH」誕生のきっかけにもなった町田美紀さん。グラフィックデザイナーとして活動しながら、地元高知の特産品をブランディングしている
 
「最近は、洋服とはまた違うところでのものづくりにすごく興味がある」と言う加藤さん。きっと、将来の「UNION LAUNCH」の姿も変化していくのでしょう。「妄想癖が半端ないので、いろんな妄想をしています(笑)。自分はファッションという仕事にずっと就いてきて、やはりファッションは老若男女に限らずみんなの気持ちが高揚するものだと思っています。ですから、とにかくみんなが楽しんで、ツールとして地方と東京の橋渡し役で、そこに洋服作りというコンテンツがあるということをしていきたいですね」
 
富山に移住してから、地元でものづくりをしている人たちとつながるようになったと言う。「自分が知らない世界だからこそ、色んなアイディアが湧いてきます」。立山町にオープンしたアロマや食、イベントスペースなどの複合施設「Healthian-wood」(ヘルジアン・ウッド)ではユニフォームを制作
 
「これまで手助けしてくれた方々は素敵な人たちばかり……。仲間がいるからできること。みんなが導いてくれています」。加藤さんの人への信頼が、新たに人と人を結びつけて、「UNION LAUNCH」の輪を全国へ広げていくことでしょう。

 

 

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