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The Innerview 04:Sarah Zellweger (SZ BLOCKPRINTS)

The Innerview 04:Sarah Zellweger (SZ BLOCKPRINTS)

Ron Herman Journal

Issue 44Posted on Apr 23.2022

目にも鮮やかな美しい色彩、繊細ながら温もりと素朴さを感じさせるハンドプリント。着る人をハッピーで明るい気持ちにさせてくれる「SZ BLOCKPRINTS」(エスゼット ブロックプリント)のウェアたち。手がけるのはデザイナーのSarah Zellweger(サラ・ゼルウェガー)さん。インドの伝統的なブロックプリントに魅了され、現代のファッションシーンによみがえらせています。ニューヨーク出身のサラさんが、どのようにしてブロックプリントにめぐり会ったのか。また、その後の運命を変えることになる出会いについて、話を聞きました。



インドの伝統的なブロックプリントの技法をモダンなデザインに昇華させた「SZ BLOCKPRINTS」。その根底にあるのはデザイナー、サラ・ゼルウェガーさんのインドへのリスペクトと愛情。「フード付きのポンチョ型ドレスをつくってみたい!」というサラさんの想いがロンハーマン別注の一着に


——まずはサラさんのバックグラウンドについて、お聞かせください。


現在、私は長年のパートナーと結婚して、イーストロンドンのハックニーで二人の赤ちゃん、エッサとヘイズと暮らしています。もともとはニューヨーク市郊外でかなりコンサバだけどいつも楽しい家庭で育ったんです。私が色やプリントを好きなのは間違いなく母スーザンから受け継いだもの。我が家はいつも色彩とプリントにあふれていたわ。とてもやんちゃな10代を過ごし、独立心旺盛で世界を経験したいと思っていました。カリフォルニアの大学に通っていた私は、大学の留学プログラムを通じてインドに行きました。インドのスピリチュアリティ、歴史、混とんとした社会、強烈さ、美しさのコンビネーションにとても興味があったので。自分が育って生活した環境とは全く違う空間を体験したかったんです。そこで私の心に火がついてしまったの。


——その時にブロックプリントと出会ったのですか。


いえ。イギリスに移り住んでからネパールのカトマンズの孤児院で働いていた時に、ヴィンテージテキスタイルを集め始め、地元のテイラーと一緒にその生地を使って服を作り始めたんです。その後ロンドンへ帰ったものの、あの美しい色や生地の手触りを忘れられず、ブロックプリントを手探りで学び始めました。そして、運命的な出会いが。「ブロックプリントのゴッドマザー」と呼ばれているキティ・レイの姪ネハが主人のボスだったんです。そして、キティの義理の妹でネハの母マンジュがロンドンに来た時に会って、自分がインドのテキスタイルに興味があり、実際にその時に作っていた生地を見せたら、彼女の故郷ジャイプールにいらっしゃい、と言ってくれたんです。



生地の柄は、インド、ジャイプールの工房の職人が一枚一枚ていねいにプリント。精妙な仕上がりながら、人の手を介した温かさが伝わってくる


——キティさんはサラさんに大きな影響を与えたそうですね。キティさんの話は後で詳しくお聞きしたいのですが、そもそもブロックプリントとはどのような技法なのでしょうか。


14世紀ころから伝わるインドの伝統的なハンドプリント(手捺染:てなっせん)。まずはブロックカーヴァー(ブロックの彫り師)が大きなブロック(木版)をものすごく小さなナイフでパターンごとに彫ります。まるでパズルを組み合わせるようなとても細かい仕事。次にプリンター(プリントする職人)が出来上がったブロックのそれぞれのパーツに一つ一つ違う色を付けて、布に色付けをしていく。一つの色を付けたら乾かし、また違う色を付けては乾かす……という細かい作業の繰り返し。大切なのは、それぞれの柄にはストーリーがあり、歴史があるということ。まずはデザインする前にプリンターと話をして、何年前のものなのか、最後に使われたのはいつなのか、その歴史的な意味をできるだけ詳しく調べるんです。私たちは、使用するプリントの遺産を大切にし、共同作業によって、新しい世代に楽しんでもらおうと試みているんです。



ブロックプリントは、ブロックカーヴァー(ブロックの彫り師)が木版にデザインを刻むことから始まる。ブロックは工房の遺産として、何世代にもわたり未来に引き継がれていく


——その後、サラさんは4年にわたってキティさんが創業したジャイプールの工房に足を運んで、ブロックプリントの技術を高め知識を吸収してきました。キティさんとはどのような方なのでしょうか。


キティはインドのブロックプリントの歴史において、とても画期的なことをしました。デザイナーとして、プリンターとのコラボレーションで布にプリントすることを始めたパイオニアです。それまでのデザインは、ブロックカーヴァーが伝統的な柄を継承してきたにすぎませんでした。1962年には、自らの工房を立ち上げました。当時のブロックプリントの用途は、主に家の中で使うカーテン、ベッドカバー、部屋の仕切りのための布や壁掛け。ですが、キティはブロックプリントでとても美しいサリー(南アジアの女性の民族衣装)をデザインしたんです。その評判は地元のジャイプールから全土に広がっていき、インドを代表するデザイナーに成長していきました。その後、フランス、ドイツ、アメリカへと輸出をして、ブロックプリントを世界へ広めていきました。1960年代、独身の女性がブロックプリントの起業家となって成功することは、インドではとても難しいことでした。キティは才能ある人は誰でも、女性でも男性でもデザイナーとして職人として活躍する場を与えて、成功させた逸材だったんです。



インドのブロックプリントは元々、人々の暮らしに根付いたアイテム。サラさんは原点に立ち戻り、現代の生活に彩りを添えるリビングアイテムにもフォーカス。このエプロンもその一つ。ロンハーマンでは5パターンを展開、内3パターンは千駄ヶ谷店限定


——キティさんが「ブロックプリントのゴッドマザー」と尊敬されている理由がよくわかりました。残念ながら2019年87歳でお亡くなりになったそうですが、実際に接してみて、どのような人柄でしたか。


キティとジャイプールの家で一緒に滞在し、数年間ともに過ごせたことは本当にラッキーでした。彼女との時間はとても穏やかで貴重でした。キティは最後まで強く穏やかな存在感を放っていました。彼女のそばに座り、その細長い指を握るのが好きでした。キティは輝くような笑顔と精神を持っていました。老齢で病気のどん底にいた時でさえ、彼女はとても生き生きとしていた。今でもキティがいないことは、とても寂しいです。



ブロックプリントの柄や色彩は植物などの生き物からインスパイアされたもの。「私が大切にしているのは柄が持っている物語や歴史。まずは職人と話をすることからものづくりが始まります」とサラさん。「工房のみんなは家族のようなもの。全員の共同作業で「SZ BLOCKPRINTS」は生まれるんです」
 

——2016年、サラさんは「SZ BLOCKPRINTS」をスタートさせました。そのコンセプトは。


ブロックプリントの服を着たかったのに、世の中になかったんです。なんて、つまらないんだろう……。だったら、自分の手でブロックプリントを使って服をつくろうと思ったんです。だけど、ただ伝統を重んじるのではなく、現代にマッチしたものにしたかった。色遣いが鮮やかでヴィンテージの図柄を使ってより現代的でモダンな作品に仕上げようと。「SZ BLOCKPRINTS」は、これまでのブロックプリントの世界に新しい命を吹き込んだと思います。私たちの服を着ている人々を見ると、とても生き生きしているし、エネルギーや力強さを感じ取ることができます。それこそが私自身を奮い立たせ、ワクワクする瞬間。だからこそ、これからも新しい色、新しいパターンでブロックプリントを続けていきたいと思っています。



サラさんにとって運命の人である「ブロックプリントのゴッドマザー」故キティ・レイ(左)さん。「ブロックプリントに出会うまで、私は一つとして人に誇れるものがなかったの。だから、人生において自分の情熱や天職を見つけたなんて驚きだった。そのありがたみは一生忘れないわ」と、サラさんはキティさんに感謝の念を捧ぐ。


——「SZ BLOCKPRINTS」が大切にしていることを教えていただけますか。


「SZ BLOCKPRINTS」で最も重要なことは本物であり続けること。完璧に彫られたブロック、ピンと張ったコットンにスタンプする時に響くブロックの永遠の音、手から布へ、服へと伝わるエネルギー……。実はキティのデザインした生地を使って現代の女性のためのウェアをつくったのは、「SZ BLOCKPRINTS」が初めてなんです。私はものづくりをする際、いつもキティだったらどう考えるか、どんな行動をとるかと思いを馳せてみます。自分でもとても驚くことですが、デザインやその他の工程、職人たちとの交流で、キティの想いが伝わってくることがわかることがあります。ただ一つ寂しく思うのは、キティの想いや技術が「SZ BLOCKPRINTS」に受け継がれていることを彼女に見てもらえないこと。ぜひ、この成功を誇りに思っていてほしい。キティ自身はジャイプールの村を出たことがないんです。インドという国を出たことが生涯で一度もなかった。ですが、彼女の作品は世界中を駆け巡り、その美しさを人々の心に刻んでいることをきっと喜んでいると信じています。ロンハーマンを通して、「SZ BLOCKPRINTS」とともにキティの想いや偉業が日本の皆さんに伝わることを誇りに思っていることでしょう。ああ、キティにハグして彼女の手を握りたいですね。


—— サラさん、素敵なお話、ありがとうございました。



キティさんが愛した“ZIGZAG”柄とモノクロカラーをドレスに。サラさんのキティさんへの深い想いがこもった一着。千駄ヶ谷店の限定アイテム。ロンハーマン千駄ヶ谷店ではキティさん、ブロックプリントのルーツにフォーカスするエキシヴィジョン“Chaap! Kitty Rae×SZ BLOCKPRINTS, Hommage to Heritage” を4月27日から5月15日まで開催


Profile
サラ・ゼルウェガー Sarah Zellweger

2016年、インドの伝統的なブロックプリントとモダンファッションとを融合させたレディスウェア「SZ BLOCKPRINTS」をスタートさせる。ブロックプリントのレジェンド、キティ・レイさんが創始したインド・ジャイプールの工房で、地元の職人たちとの協業にこだわってものづくりをする

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