Journal

NetPlus Japan with Ron Herman

NetPlus Japan with Ron Herman

Ron Herman Journal

Issue 109Posted on May 20.2025
昨年の2024年という一年は、大きな悲しみと深い心の痛みとともに始まりました。1月1 日16時10分、能登半島に、マグニチュード7.6 、最大震度7という大地震が起こりました。「能登半島地震」は、現在1年半近くの月日が経ったのにもかかわらず、地元に残る爪痕はいまだにいえてはいません。被災した人々のもとに、日本を始め海外からも、多くの助けの手が差し伸べられました。寄付や食料品や飲料水などの物質的な支援、ボランティア活動などと、その手法はさまざまでしたが、独自の方法で貢献をしたのが、「Ellange」(エランゲ)の関幸太郎さんです。


NetPlus®リサイクルナイロンを使用した「RANGE OF LIGHT」(レンジ オブ ライト)のEasy pantsとHigh gauge stretch skirt。
付属するQRコードから、NetPlus®特設サイトを見ることができる。※トップスはネットプラスを使用したアイテムではございません。
 
まずは、この夏に発売するロンハーマンのプライベートレーベル「RANGE OF LIGHT」(レンジ オブ ライト)のウェアをご覧ください。2024年に自然と人、人と人を繋ぐ、上質で快適なアクティブウェアとして誕生したRANGE OF LIGHTですが、この新作に使われている素材は特別な素材から、生まれています。実は漁業関係者の方が廃棄した魚網をアップサイクルしたナイロンからできているのです。そう、以前にもご紹介した「NetPlus®」(ネットプラスのリサイクルナイロンを使用しているのです。NetPlus®はアメリカ出身の3人のサーファーが、海に廃てられて環境にダメージを与えてしまう魚網を漁師から購入して、ナイロンを生み出すという持続可能なサイクルを構築することを目指したプロジェクトです。2013年、彼らは「BUREO」(ブレオ社)を立ち上げて、その新たな試みは世界にも広がっていきました。日本での担い手になったのが、関さんでした。

石川県輪島市の漁港。漁船の数は200隻を超えて、震災前の水揚げ高は石川県で最多だった。底曳漁が盛んで、春秋はノドグロやカレイ、冬はカニと、海の幸に恵まれている

関さんは大手の旅行会社で働いていましたが、「地域のためになることをやりたい」という思いから辞職。2カ月ほど全国を飛び回り、農家や酪農家、漁業関係者など一次産業に従事している方を訪れて、どんな課題があるのかをリサーチしました。「結果、漁業にひかれました。クローズドな世界で、いろいろと課題があっても表面化しない。逆に、そこに可能性があると感じました」と関さん。縁あって、石川県の漁師と協力して、カキやカニの海産物をレストランに販売する海産物の卸事業を手がけました。ですが、漁業関係者とかかわっているうちに、ある事実を知り驚くことに。


2024年11月8日に震災以来の漁に出られた。「ひと安心ですが、二次避難で人手不足で、制限をしながら船を出しています」と、輪島市小型底曳網組合会長の沖崎勝敏さん(左から二人目)

「ある時、『魚網を使い終わった後にどうするんですか』と漁師さんに聞いたら、『海に捨てるんです』と言われて、衝撃を受けました。海は広大だから、量的にも影響はたいしたことないのかなとも思いましたが、気になって調べてみると、魚網は水より比重が重いので沈むんですね。そうすると、カジメとか海藻類に被さり呼吸ができなくて死滅してしまい、稚魚や稚貝が育たなくなる。結果、漁場が衰退して、漁業ができなくなってしまうことに気づきました」。そして、魚網の廃棄問題を解決する行動を起こそう、と事業をシフト。手探りでリサーチした結果、NetPlus®に行き着きました。

2024年12月の輪島市街。「復興はまだまだです。漁業を再開したとか明るい話題はニュースになりますが、本当の現状はあまり伝わっていない」と、沖崎さんは顔を曇らせる

「2022年、来日したNetPlus®のチームにプレゼンをするチャンスに恵まれました。ですが、すぐに話が固まったわけではなくて、『関は今までどこを歩いて来て、どんな網があるのかを教えてくれ』と。今まで1年ぐらいかけて、自分なりに下準備をしてファイルにまとめていたんです。『あそことここでは、こういう網があります』『リサイクルをできるのは今のところナイロンだけなので、このエリアで僕は事業を始めたいと考えています』と思いを語りました」。結果、関さんの熱意が伝わり、BUREOからサポートを受けることに。そして、千葉県の外房で、NetPlus®の事業をスタートさせたのです。

二次避難先の金沢市の漁港で輪島市の21人の漁師の方が、魚網の裁断に従事した。「皆さん、網の扱いには慣れていらっしゃいますし、作業は早かったですね」と、関さん。

そして、2024年1月1日、運命の日を迎えます。関さんは、「今、本当に何に困っているのかをお聞きしたかった」と、輪島市小型底曳網組合の会長を務める沖崎勝敏さんと、二次避難先の金沢で会うことに。「仕事がない。だったら、僕たちはこういう仕事をしているので、魚網を裁断するお手伝いをしてもらえませんか」と提案しました。「ありがたかったですね。漁業はできませんでしたから、皆、助かったと思います。また、みんなで集まって仕事をするのも、楽しかったし、その意味合いも強かったと思います」と沖崎さん。「ある漁師さんの奥さんが『ありがとうございます』と、涙を流してくれて。1月から3月まで何もすることがなくて家にいて、家族でケンカが増えて、精神的にも大変だったと」。当初、2024年、3月から1カ月の契約で始まりましたが、漁業が再開できる見通しが立った9月まで続きました。


NetPlus®の実際の作業はとても大変ですが、服を着る方に少しでも背景を知っていただけたら嬉しいです。

「今回は震災ということで、輪島市の漁師さんとのプロジェクトになりましたが、日本全国に問題を抱えている漁業関係者のコミュニティがあります。そのお役に立てることを模索しているところです。NetPlus®チームの海に対する愛情は、めちゃくちゃシンプルなんです。こんなシンプルなことを、なぜ今までやってこなかったんだろう、なんで広まらないんだろう、と。こういう漁師さんたちがかかわっています、としっかりと伝えることができる。トレーサビリティが確保されているのは強み。『顔』が見える素材、衣類はありません。そこはぜひ感じ取ってもらいたい部分かなとは思いますね」。今後も、ロンハーマンは関さんとともに、NetPlus®の網を広げていく、お手伝いができたらと考えています。

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